「ドラムライン」

ドラムはバトルだ!


  

今発売中の「ぴあ関西版(5/3号)」をパラパラと見ていると、神戸にある西灘劇場がどうやら5月で廃業するような記載が...。電話をして確かめたわけではないけれど、ネットで検索すると“三宮アサヒシネマに続いて、西灘劇場までも...”と載っていた。淋しいことです。
昔は大阪の大毎地下、戎橋劇場、それに北浜の三越会館でもたまに旧作をやっていた。神戸だとビッグや甲南朝日なんかによく行った。これで、二本立てで映画を観ることが出来る二番館(名画座?)は、湊川(新開地)のパルシネマぐらいになったのかなぁ。
阪急の王子公園を降りて、東側へ長く続く商店街を通って、アーケードが終わったところを右(南)へすぐにひっそりとある。タイムスリップしたような映画館。窓口でチケットを買い、入口を入ると、チケットを売ってくれたお姉さんがもぎりに変身。ロビーには以前上映した作品のプログラムやポスターが展示され販売されている。なんか懐かしい匂いが漂う映画館。年に何回も行く劇場ではなかったけれど、残念。これでますます、観逃した映画を探してあちこちウロウロしなければならなくなる。

さて、この日の三本目。この日が初日の「ドラムライン」。シネリーブル神戸。ボクが好きな学園もの。ノーテンキな青春ものかと思いがちだけど、そんな感じではない。
これは単にボクの認識不足だったのかもしれないけれど、知らなかった。米国には、白人が多く行く大学と、アフリカ系米国人(黒人)が教職員・学生の殆どを占める大学とがあるということ。
で、映画の舞台になっているアトランタA&T大学には、あんまり白人はいない。そんな大学にあるマーチングバンド部がエピソードの中心になっている。
アメリカンフットボールのハーフタイムに繰り広げられるショウ。この映画では、フットボールの選手は添え物以下の扱いで、マーチングバンドこそがフットボールをもしのぐ激しいバトルの主役。

主人公の少年デヴォン。ハイスクールのマーチングバンドでの活躍を見いだされ、この大学に特待生扱いで入ってきた。彼を待ち受けていたこのバンドは...。って感じで映画は始まる。
内容はいかにもスポ根青春もので、同級生との友情や恋、もちろん主役はバンドでの想像を絶するような訓練(練習ではなく、これこそ“訓練”!)、軋轢、挫折、挑戦、再生、そして栄光。まぁ一通りのことが繰り返される。
でも、どれもがなんか踏み込みが浅いような気がした。予定調和というか、全てが予想できる範囲の中で起こり、決着していく。意外性だとか、驚きはほとんどなかった。でも、それは仕方ないのかな。

結局、この映画はストーリーや人物像に魅力があるのではない。今まで未知の世界であったドラムラインというパフォーマンスの凄さを素直に受け止めることにこそ意味がある。
物語りの切り口がマーチングバンドで、それもほぼドラムに特化されている。ラスト近くのクライマックスで演じられる演奏、いや決闘(まさしくバトル!)には、息が詰まり鳥肌が立つ。

ボクが見に行くカレッジのフットボールでもハーフタイムショウはあるけれど、それはチアが体操するのを見るようなものだ、音楽はテープを使っているしね。一度本場のフェスティバルを見てみたいものです。

もう少し注文を付けるとしたら、もうちょっと訓練(練習?)シーンを丹念に追って欲しかった。「バンドは一つ、音楽も一つ」という標語はいいとして、どうやって全体の音を合わせる練習をして、そしてどうやって一糸乱れずあの広いフィールドを縦横無尽に展開できるのか。バンドが徐々に完成していく過程とデヴォンが人間的に成長していく様子をリンクさせて欲しかった。
そうじゃないと、初めから凄い才能とテクニックを併せ持った人たちが集まり、ほんのさわりをちらっと練習したらこんなバンドが出来ましたって感じ。もっと人間臭くって、汗と泥の匂いが欲しかった(まぁ一部そんなエピソードもあるにはあったけど)。

もう少し上映していると思います。興味があればどうぞ。土曜の夕方だったせいか、そこそこお客さんが入っていましたョ。

蛇足だけど、デヴォン役を演じるニック・キャノンっていう役者さん、東京に行っちゃったモリアキ総務部長を彷彿させる面影を持っているんやなぁ(そう言えば、ずっと前にはイランの映画に出てたねぇ)。

おしまい。