「オアシス」

予断と先入観


  

こんどはばっちりと、この日が初日の映画「オアシス」。
東京では随分前から公開されていたせいもあって、この「オアシス」の公開を楽しみに待っていた。ソルギョングとムンソリの主演。「グリーンフィッシュ」「ペパーミント・キャンディ」に続くイチャンドン監督の三作目。

主演はソルギョング。でも、この映画ではソルギョングという役者さんの個性が凄く薄い。この「オアシス」という映画で映し出されるのはジョンドゥであって、ソルギョングではない。
ソルギョングというのは本当にたいした役者さん。驚くしかない。役によって表情まで変わってしまうから不思議。年齢さえも不詳と言うしかない。「ペパーミント・キャンディ」の時は、夢に溢れた20手前から、エネルギッシュな青年、そしてうらぶれた中年手前までを演じていた。つい先日拝見した「シルミド」では、「肉体的にも精神的にも極限に追い詰められる兵隊を精悍な顔立ちで役に成りきっていた(次回作は「力道山」だそうです。楽しみ!)。
一方のムンソリは「ペパーミント・キャンディ」でキムヨンホの初恋の相手ユンスニム。印象派薄かったけれど、時代を繋ぐ役で好演していた。今回は一転して、凄い演技を見せてくれる。この人も凄い!

どう説明しても、言葉でこの映画を説明するのは難しい。

“前科者と身障者の恋”と言ってしまえば、そうなんだけど、この映画を物語りとして受け取ればいいのか、それとも問題提議だと思えばいいのか。オブラートに包まれていない、余りにもストレートな表現に、最初から圧倒されっぱなし。
だけど、このストーリーは決して“美しいお話し”とか“いいお話し”ではない。当事者の二人の視点から見ればそうなのかもしれないけれど、客観的に第三者的に見れば“とんでもないお話し”でさえある。

ジョンドゥ(ソルギョング)は、自分を表現するのが下手。そして、普通に見れば、ちょっと変わった価値観を持って動く人間だ。だけど、憎めない優しさも併せ持っている。そんな彼が刑期を終えて出てくる。家族に取ってみれば、都合よく忘れていた、ちょっと困った親戚が突然現われたようなものなのかもしれない。この家族は「常識人」として描かれているけれど、確かに配慮が足りないし、あまりにも彼を邪険に扱いすぎている。ジョンドゥの受刑の理由が、途中で明らかになり、余計にその感が強くなる。彼らは「臭いものに蓋」式の発想しかない。
コンジュ(ムンソリ)にしても、ひどい話しだ。身障者用のアパートに移る。しかし、コンジュは古いアパートに残されたまま。彼女の兄は何を考えているのか。まぁ、彼の行動もわからないわけでもない。彼は妹の面倒を見るために、一体何年間我慢を強いられてきたのか。その彼が、疲れ果ててしまっていても、誰にも文句を言えないのも確かだ。

「予断と先入観」。その中でボクは毎日生きているのだな。そんなことをこの映画を観ながら考えていた。“この人は刑務所に入っていたことがある人だから...”、“この人は先天的な身障者の人だから...”。だからそんなハズはない、こんなことが起こるわけがない。まるで、ジョンドゥの兄と一緒の考え方、捉え方だ。何も映画の中だけでのことではなく、全てにおいてそうなのかもしれない。
もう少し、見方を変え、考え方を変え、違う角度からも物事を検証する習慣を付けなければいけないのかもしれない。
ジョンドゥを無条件に受け入れるわけではない。でも、真夜中、街路樹に登り枝を払う彼の姿が、とてつもなく眩しかったのも事実。

まぁ、この「オアシス」を観るときに、そんな難しいことを考え、構える必要はない。普通の気持ちで観て、感動してもらえたら嬉しい。
オススメです。初日の二回目の上映にもかかわらず、お客さんはパラパラと淋しい限り。ほんとは多くの人に観てもらいたい映画なんだけどなぁ...。梅田では4/30までガーデンシネマで、神戸ではシネカノン神戸でもうしばらく上映しています。是非、スクリーンでご覧下さい!

おしまい。