「サマリア/Samaria」

許すとはどういうことなのか


  

綺麗に晴れ上がった。
今日の飛行機で帰るというのに、一番いい天気になったのは皮肉だな。いつものように6時前に目は覚めたのに、昨日の山歩きの疲れか、そこからまた寝てしまった。おかげで気持ち良く起きた。シャワーを浴びてシャッキリする。
時間が無いのでタクシーを奮発してシネキューブまで駆けつける。そうしたら、ちょっと早く着き過ぎた。

もうソウルでの上映は終わってしまったのかと心配していたけれど、シネキューブで朝の一回目だけ上映していた(この週からアートキューブからシネキューブに上映館が代わってる)。良かった。ベルリンで銀熊賞(監督賞)を受賞したキムギドクの最新作。
さらっと粗筋は読んでいる。二人の女子高生が主人公だと思っていたけれど、実は、イオルが主演。「中毒」のお兄さんでしたね。

衝撃を受けるような画像はない。ストーリー展開もキムギドクにしては「大人しい」。
この映画に深く、静かに沈殿しているのは「哀しみ」だと思った。この哀しみは、画面から発散されているのではなく、薄いヴェールのように画面全体を包み込んでいる。

二人の女子高生は役目を分担して「援助交際」している(この「援助交際」という言葉というか表現は嫌いだなぁ)。ここで得たお金を貯め、ヨーロッパへ旅行する予定。
インターネットや電話でヨジン(クァクジミン)が段取りをして、ジェヨン(ソミンジョン)が実際に男と落ちあいモーテルへ行く。ヨジンはモーテルの前でジェヨンが戻って来るのを待っている。
いつもあっけらかんととして、笑顔さえ浮かべて戻って来るジェヨンのことがヨジンには理解できない。
ある日、ジェヨンが入っていったモーテルに警官が踏み込んでいった。それを見たヨジンは携帯でジェヨンに知らせ、ジェヨンは非常階段から下着姿で飛び出し、事なきを得る。しかし、別の日、今度は上手く行かなかった。ヨジンの目に前で、警官に追いつめられたジェヨンはモーテルの高い窓から飛び降りる。
ヨジンは、頭から血を流すジェヨンを負ぶって病院に駆け込むが...。

ここから二つの物語が語られ始め、やがて交錯する。

ジェヨンは全てを許す。そのジェヨンの「許し」を伝達するために、ヨジンは罪人たちを罪から解き放つ旅へ出掛ける。
刑事ヨンギ(イオル)は、捜査の途中、娘の姿を見かける。自分の目が信じられない。父は娘の後をつけるようになる。そして、ヨジンから許され浄化された罪人を再び奈落の底に突き落としていく。
そして、父と娘は旅に出る。亡くなった母の墓参り。その晩、二人きりで草庵に泊まり、ヨジンは父が全てを知っていることを悟る。ソウルへの帰路、眠ってしまった娘の横顔を見ながらヨンギはあることを決意する。

難しい。

心の中で充分咀嚼できないうちに物語りはどんどん進行していく。頭の中は混乱していく。その中でジェヨンが死んでしまう。
そこからみせるヨジンの行動は理解できない。何が彼女にあのような行動を取らせたのか。
その点、ヨンギの行動は明解。彼の形相は鬼を思わせる。旅で娘に見せる全てを悟りきった仏のような表情とは対照的。

シャワーは、懺悔室だったのか。

許すとはどういうことなのか。

これまた、日本語字幕付きでもう一度じっくり観てみたい作品です。公開予定もあるようです。

おしまい。