「九歳の人生/When I Turned Nine」

子供なりに大人の世界の縮図の中で生きている


  

この日は、早朝から山歩き。
ソウルの北東の郊外にある水落山(スラクサン・637m)を歩いてきました。最近の運動不足がたたって、歩いている最中はヘトヘトだったのですが、シャワーを浴びてリフレッシュするとすっかり元気になりました。
それから街へ繰り出して、鐘閣にあるYMCAの傍でカンジャタンとビール。ぽかぽか陽気でもあり、今度はちびっと眠くなってきました。このあたりは工事中だったミレニアムプラザの巨大なビルが完成して、ちょっと様子が変わりしましたね。
この近くにあるコアアートホールでキムギドク監督の新作「サマリア/Samaria」を観ようと思っていたのですが、劇場に着いてみると、なんと水曜(前日)で上映が終わっている。この日から「九歳の人生/When I Turned Nine」の“前夜祭”で、上映が切り替わってるやんか!! ショック!!
まぁ、仕方ないから「九歳の人生」を一日早く観ようか。気持ちの切り替えの早さも大切です。

前日、何度か予告編も見ている。
舞台はどこかの田舎街(また江原道か?)。時代は1970年代。ここに住む貧しい少年と、同じクラスの子供たちの物語り。
子供の世界って純真だと思いがちなんだけど、それはそれで厳しい。まぁ、大人の世界の縮図のような趣がありますね。

ちょっとボケっとしたヌケ作かと思わせておいて、この主人公のミヨンという男の子、喧嘩だけは滅法強い。彼の子分の男の子とミヨンのことを好きな女の子クムボク(彼女はなかなか迫力がある女の子で、なんとも逞しいキャラクターの持ち主)。この三人は仲良しで、教室でも放課後でも一緒につるんでいる。
そんな教室に、ソウルから“白い服”を着た女の子が転校して来たから、ごろっと状況が一転する。しかも、この転校生・ウリムはミヨンの隣の席。ミヨンがウリムに興味を示すと、クムボクは気が気ではない。ウリムはミヨンに何の興味も持っていないけど、クムボクは何かにつけウリムに喧嘩を売る(お〜こわ!)。この妙な三角関係に、ウリムの家が金持ちであることもあって、クラスの中ではいろんなことが起こる。

普通の教室で起こりがちのことはもちろん、それ以外にも貧富の差がもたらす軋轢など、エピソードにはこと欠かない。子供にとっては家と教室がほぼ全てと思いがちだけど、近所のお嬢さんと彼女に思いを寄せる青年の仲を取り持ったり、目が悪い母親にサングラスを買うためにお小遣いを貯めたり...。それはそれでいろいろあって大変なんだなぁ。
そう、まるで子供なりに大人の世界の縮図を体験しているんだ。
それにしても、暴力が日常的に支配しているんだなぁ。教師は児童をどつきまわすし、母親もミヨンを折檻する。特に、ミヨンに窃盗の疑惑が掛けられたときは可哀想だったなぁ。その疑惑が晴れたときに先生がする「しまったなぁ」という表情は良かった。

結局、ウリムは教室に旋風を吹き荒らして再びソウルへ帰って行く。
ボクは、懐かしさや郷愁を感じはしたけれど、なんかそれだけだった。もう少しストーリーに工夫が欲しかった。結局、このウリムに出会ったことでどれだけミヨンが成長したのか、変わったのか、それを映像で教えて欲しかった。別に催涙の仕掛けが必要なわけではなく、成長が見たかった。

まぁ、それは贅沢な話しで、芸達者な子供たちを楽しませてもらいました。
しかし“前夜祭”と銘打っておきながら、お客さんは僅かに5名。木曜日の昼下がりとはいえ、これはあまりにも淋しい。地味な作品だけど、短命に終りそうやなぁ。もちろん、日本での上映も苦しそうです。
このコア・アート・ホールにお邪魔するのは久し振りだったけれど、ここってこんなにシートが悪かったっけ? お尻だけでなく、腰も背中も痛くなりました。

おしまい。