「太極旗を翻して・TAEGUKGI」

大ヒット中、壮大な大作


  

公開される前から、この映画は絶対に大ヒットすると約束されている作品がある。
いわゆる“大作”で、潤沢な予算と日数、豪華なキャスティング、一流監督、そして計算されたプロモーションなどなど...。話題も先行して、こちらも公開前から胸をわくわくさせて待っている。
最近では「実尾島・シルミド」がそうだった。韓国で前人未到の1,000万人を超える観客を動員。これは凄い。確かに迫力がある作品だった。同じように約束されていながらコケてしまったのが「二重スパイ」。ハンソッキュウにはちょっとかわいそうだったかな。そして、「実尾島」の1カ月半後に公開されるや否や、大ヒットしている作品が「TAEGUKGI」。「実尾島」の記録を次々と塗り替えている。今回、ボクの“ソウルで映画”の目玉のひとつ(もうひとつは「サマリア」)。

この「TAEGUKGI」は早くも日本での公開が決まっている。しかも、この6月らしい。凄い速さ。驚くしかない。
当初、この作品は「太極旗を翻して」というタイトルで報道されていた。なのに、日本で公開されるタイトルは「ブラザーフッド」と決まったようだ。何か違和感があるなぁ。どういうプロセスを経て邦題が決まるのか知らないけれど、「ラブストーリー」の件といい、センスのない邦題が気になる。だから今回の紹介には、ボクが一番スンナリ受け入れられると思ったオリジナルの英題「TAEGUKGI」とさせていただきます。

公開からもう2カ月近く経っているので、さすがにスクリーンの数も減っているかと思ったら、ほとんどの劇場でまだ上映している。今回もお邪魔したCOEXのメガボックスでも、巨大なスクリーン3つを占領している(ちなみに「実尾島」もまだ上映中!)。
メガボックスは、24時間営業ではないけれど、早朝から上映している。上映予定表とにらめっこをして仔細に検討した結果、朝一番8:00スタートの回を見ることにした。こんな時間から上映していることも凄いけど、こんな時間から観に来ているお客さんがいることも凄いね(まぁ、ボクも含めて)。400名ほど入れるスクリーンにたったの10数名だったけど...。

約2時間半ほどの長尺だけど、その迫力に時間の長さはさほど気にならない。
チャンドンゴンとウォンビンという2大スターが競演して、スケールの大きな映像から潤沢な予算が投じられているのがよくわかる。それに監督は「シュリ」のカンジェギュ。撮影の最中から芸能ニュースだけでなく一般のニュース報道でも何度も取り上げられていたしね。その結果、空前絶後と思われた「実実島」の様々な記録をいともカンタンにクリアしているのも頷ける。

弟(ウォンビン)を守るために一緒に徴兵を受け、同じ部隊に入る兄(チャンドンゴン)。
この映画は、兄弟愛と戦争そのものが持つ悲惨さ、同じ民族が対峙する朝鮮戦争の悲惨さを描いている。
正直言って、戦闘シーンは激しすぎてこちらの感覚が麻痺するし、少々食傷気味でさえある。迫力とリアリティがあることは、単に爆破シーンを映し出すことなのか。それよりももっと別の方法で観客の感性に訴えかける表現方法や映像があるはず(戦闘シーンは半分以下で済んだのではないか?)。もっとも、派手なドンパチそのものもこの映画がヒットした理由の一つかもしれないから、一概には否定できないけれど。

この作品はキャラクターの設定やアクションに重きが置かれている。
そして、この映画の凄いところは、朝鮮戦争が舞台だけに「勧善懲悪」と割り切って語っていないところだ。
この兄弟は何のために闘ったのか、祖国や民族の独立を守るためだったのか? そうでは無かった。では、自分が信じるイデオロギーを守るためだったのか? それも違う。
そこで考えられたのが、国や民族やイデオロギーよりももっとわかりやすいもの、すなわち肉親(兄弟)を守るために銃を持ったという設定。
だから、自分が守ろうとした肉親や婚約者をいとも簡単に殺してしまう国に愛想を尽かした兄は、北へ転向してしまう。しかし、最終的には弟を守るために、再び北に向かって引き金を引く。何ともわかりやすい単純な構図。

しかし、ここまで書いたことは、この作品を観終わってから随分時間が経った今になって思うことで、そんなことを思い考えながら観ていたわけではない。
スクリーンを喰い入るように見つめて、その迫力に圧倒されながら観ていた。ほろりとした、笑った、考えた。
もっと単純に言うと、チャンドンゴンのかっこよさに痺れてさえいた。いや、ほんとかっこいい! もちろん、ウォンビンも悪くはない。
チェミンスク、キムスロも顔を出してくれます、ボクのひいきのコンヒョンジンも渋い役で脇を締めてる。

この映画が伝えたいのは、つまり「わずか50年前に、こんなに苦労をし、多大な犠牲を払ってまで手にしたこの国をこれから(お前たちは)どうするんだ!」という全ての韓国の国民に対するメッセージではないのか。そんな気がした。

映画が終り、場内が明るくなってから気がついたんだけど、二人組みで来ていた若い女性が号泣していました。なんかその気持ちも良くわかります(ボクもラストではホロッとしてしまった)。しまったな。この映画は満席の劇場で熱気に包まれて観るべきだったかもしれない。
もちろん、日本語字幕付きでもう一度観てみたい作品です。日本での公開の際は、チャンドンゴンやウォンビンに興味が無くても、是非ご覧ください。オススメです。

おしまい。