「月曜日に乾杯!」

そのままふらっと出かけてしまいたい


  

クラシカルな匂いがする映画館はどんどん姿を消している。ボクが学生時代にあり、なおかつ現在も存在している映画館はもう数えるほどしかない(震災の影響を差し引いたとしてもね)。その数少ない存在例の一つが今回お邪魔した西灘劇場。もう歴史的建造物に指定してもいいかもしれない。そんな趣がある(決して悪い意味ではなく、郷愁がこんな発言をさせる...)。
この「月曜日に乾杯!」って、どこで上映したんだ? 気が付かないうちに終わってしまったよう。そしてここで出会うとはね。このところ続けて観ているフランス語の作品。別に自慢ではないけれど、ほんとに米国の映画をあんまり観ないなぁ。

毎日、判で押したような生活をしているお父さんが主人公。決まった時間に家をクルマで出発して、汽車とバスを乗り継いで勤務先の工場に出勤する。仕事を終えて帰ってきてからが自分の時間なんだけど、食事も楽しそうじゃないし、家族からそう愛されているようには見えない。
そんなある日、工場の門までバスに乗って来るんだけれど、突然、出勤するのを止めてしまう。出社拒否とかではなく、「束の間の休日」。きっと、お父さんもそのつもりだったんだろう。でも、街に住む父親を訪ねて、そこでヴェネチアに住む父親の友人に会いに行くことを勧められ、お小遣いをリラで貰ってしまう。こうなったら、イタリアへ行くしかないでしょう。
こうしてみると、ヴェネチアはヨーロッパ人にとって、日本人にとっての京都のような存在なんだな。とにかく京都を目指すように、ヴェネチアを目指すんだ観光客は!

ふとしたきっかけで知り合ったこの街に住む男と誘われるままヴェネチアでの一日を過ごす。父の友人にも会った(このおっさんは傑作だ!)。

その間、失踪したお父さんを血相を変えて捜すわけでもなく(まぁ、少しは努力していたようだけどね)、何か達観した気持ちで悠然と生活を続けるこの一家も凄い。

楽しい一日の終わりかけに、男とともに突然屋根に上る。観光客が見ない本当のヴェネチアがここから見える、と言うのだ。広がる海と、一面に明るい黄土色の屋根瓦の建物、寺院の鐘楼などの美しいシルエット。住む人が変わっても、何百年も変わらない街の姿。マルコ・ポーロもこの街並みの中で育ったのだという。う〜ん、そうだったのか。

一体どれくらいの日が過ぎたのか、お父さんはようやく家に戻る。何事もなかったような顔をして、内心はびびっていたようだけどね。そして、家族も普通に受けいれる「お帰りなさい」って。
そして、翌朝。お父さんはまたいつものように出勤して行く。

これって、いいオヤジにも「プチ家出」は必要だってことなのか。
そりゃそうかもしれないけれど、何か良くわからない映画だと思う。普段の生活に凄い不満があったわけでもないようだし、強いて言えば工場の禁煙にはかなりストレスを感じていたようだけどね。ちょっとした不満が溜まって大爆発をしないうちに、息抜きをしたのがこの家出だったのでしょうかね。ボクの感覚だと、この家出も大爆発だと思うけどな。
もっと心配なのは、このお父さん、勤務先からは解雇されていないのかなぁ?

何も起こらなかったけれど、同じコンパートメントに乗り合わせた謎の美女。ほんとうに謎のままで終わってしまったのは、ちょっと残念でした。

おしまい。