「KEEP ON ROCKIN'/キープ・オン・ロッキン」

自分で考えて、決めるって、大事なことだ


  

あれは何しに東京へ行ったときだったか、この映画がひっそりと公開されているのを知り、観に行きたかったけれど、時間がなくて果たせなかった。以前は頻繁に東京出張があり、そのついでにいろいろ出来たんだけど、最近はさっぱり...。
その映画がようやく、これまたひっそりと、ミナミでも地味な頓堀東映で最終回のみの上映で公開された。昼間はアニメの「ワン・ピース」をやっている。
ここ道頓堀東映は、今ではあまりお目にかかれなくなったクラシカルな映画館。今のシネコンとかミニシアターしかご存知無い方は、是非一度お越しください。確かに、ほんの数年前まで映画館とはこんな雰囲気だった。

青春映画か、これは。

青春とは、ロックとは、古い体質や既成概念を打ち破るもの、そのパワーの源だったハズ。
だけど、ふと我に返り、元の鞘に収まっていく姿を静かにかつ熱く見せてくれる。この映画は、現在進行形の青春を送っている人には理解出来ないのかもしれない。だけど、青春が思い出になり、規模の大小はあるにせよ、(強制されたのではなく、自分自身で考えて)自分との折り合いを付けたことがある人なら誰でも共感できる部分がある作品だと思う。

誰かに強制されていたらきっとこうはならなかった。
好きなことをして、成功して、好きなように生きてきた。ある意味、目先の富も名声も手にした。少し落ち目かもしれないけれど、まだまだ自分の可能性を信じているし、今までそうしたように追いかけていくことも出来る。
だけど、どんな人にだって人生の転換期はある。きっとある。それに自分で気が付くのか、それとも気付かされるのか。その違いは大きく残酷だ。

主人公は人気の絶頂を経験したロックバンドのリーダーであり、ボーカル。数年前には、大きいホールを何度も何度も満員にしたバンドだ。しかし、今では100名も入れば一杯のライブハウスで演奏するのが精一杯。その理由は、慢心なのか、それともメロディの枯渇なのか。その両方か。
レコード会社からは契約の打切りを通告される。バンドの内部でも亀裂が起こる。一方、同棲しているモデルの女の子との生活もなんだかマンネリ。は故郷の小名浜へクルマを走らせる。
故郷で待っていたのは、幼馴染の暖かい歓待と工場を経営する父親の入院だった。

確かに心の葛藤はあったに違いない。
でも、英二の心がどんどん故郷に振れて行くのは、英二自身の自己満足があったんじゃないかな。バンドとして成功した、ビッグにもメジャーにもなった。ただ、それが長続きしなかっただけだ。自分の才能を信じて成功した。まだしがみ付きたいけれど...。
もう一つは、ふと自分に年を感じることだろう。友人は若いものに親方と呼ばれ、昔の恋人には娘がいる。父親の主治医はなんと自分の同級生ではないか。 いつまでこんなことを続けるのか。もうそろそろ潮時ではないか。ふとそんなことを思う。口の悪い父親はそう口に出すが、自分では思っていても、口には出さない。
母親や友人たちは口をそろえて「好きなようにすればいい、まだやれる」と応援してくれる(一人を除いて)。
自分自身も揺れる思いが整理できない。そんな気持ちこそが「若さ」なのかもしれないなぁ。
その気持ちに踏ん切りをつけるのが、新しい曲だから皮肉と言えば皮肉か。
前の世界に、まだ能力はあるという余韻を残し、自分の心に満足して、惜しまれて新しい世界へ踏み出せる。そんな自信を彼に待たせてくれてのが、新しい曲。
これからは自分の魂をぶつける対象や方法を変える。何も成功するとは限らない、面白いことばかりではなく、つまらないことや辛いことばかりかもしれない、でもそれにチャレンジすること、それもロックなんだ。

いい話しだ。甘いところもたくさんあるけれど。

狙いなのか、わざとなのか、それはわからないけれど、盛り上がりに欠け、平板な印象を受ける。ちょっと手を加えるだけで、劇的に催涙感動ムーヴィーにすることも出来たはずだ。
惜しいような気もするし、これはこれで良かったような気もする。きっとあまり脚色するとホントの話しから逸脱してしまう。それを恐れたんだと思う。

おすすめしようにうも、もう上映は終了してしまいました。ビデオやDVDになるのかも不明(きっとならないような気がする)。主演を演じているのは人気ロックバンド“to be continued”の元リードヴォーカル・岡田浩暉。この人はミュージシャンだそうです、もちろんボクは知らない人だけど。
何か上映会などでご覧になるチャンスがあれば、そんなに損はしない作品だと思います。説教臭い話しではありません。
上映最終日のこの晩は、50名ほどの入り。正直言って驚きました。

おしまい。