「クラシック/ラブストーリー」

過ぎ去った過去は何と...


  

同じ映画を二度観る。実は、これはなかなかの冒険。
どんなに素晴らしいストーリーでも、二度目には色褪せてしまう。まぁ、筋がわかっているんだから、それも仕方ない。しかし、稀に二度目でも輝きに満ちていることがある。果たしてこの「クラシック」はどうなんだろう?

まず、この邦題「ラブストーリー」はどうやねん! 
ちっともしっくりしてへん。ボクは「クラシック」のままの方が良かったんとちゃうかと思うねんけどなぁ。

「猟奇的な彼女」のクアックジェヨン監督。韓国でそこそこヒットしたことと、彼の作品であるということで日本での公開も早々に決まったのだろう。でも「猟奇的な彼女」のようなはちゃめちゃな面白さではない。ところどころに、ニヤっとさせられる仕掛けはあるけれど、この「クラシック」は真っ向勝負の恋愛ものだ(ボクは「猟奇的な彼女」もピュアな恋愛ものだと思っているけどね)。
主演はソンエジン。はっとするような美しさではないけれど、控えめではかなげな美しさを持っている。彼女が一人で母の少女時代と、娘の女子大生の二役を演じる。もちろんそっくりだから、髪型と服装で見分けるしかない。

ある日、チヘ(ソンエジン)は海外旅行中の母親の文箱を開けてしまう。そこには母の娘時代の手紙と日記が残されていた。それを読み始めるうちに、彼女は封印されていた過去の物語りの中に引きずりこまれてしまう。
そして、ふと気が付くと彼女自身もなんだかよく似た境遇にいることに気が付く。母親は代筆された手紙を受け取り、自分は友達のために代筆している。
こうして、過去と現代を行きつ戻りつしながら、母と娘が経験する愛が語られ始める...。

ソウルで観たときには、言葉の壁があり、全体の雰囲気の中で流れを掴んでいくしか仕方が無かった(それは、それで良かった。グレイ・ゾーンは意外とイイものかもしれない)。
でも今回はちゃんと字幕が付いている。その結果、ボクが理解していた前提条件が幾つも崩れていってしまう。「あぁ、そうやったんか!」って膝をポンポン叩いていた。あかんなぁ(もちろん、知らなければ良かったってこともあったけどね)。
また、全体の流れをすでに把握しているだけに、細部に目が行ってしまう。そして、最初は気付かなかった部分が妙に気になってしまう。

もちろん、ストーリーとしては「破綻していない」。
しかし、冷静になって考えてみたら、このストーリーが成り立つために、その陰で「泣く」存在が少なからずいるのも確かだ。それが二度目に観て気になって仕方なかった。
でも、それは野暮なことで、まぁ、そんなことをいちいち考えずに、もっと素直な気持ちで、数奇な運命によって巡り合った美しいストーリーに心を奪われて「酔う」。それがこの映画の正しい観方だと思う。

それに、e-mailや携帯メイルの今の時代には、紙にしたためられ、郵便屋さんが届けてくれる「手紙」の存在は新鮮だ。こんな時代だからこそ、二人が胸をときめかせる手紙のやり取りに憧れに近いものを感じる(ほんの数年前まではそれが当たり前だったのにねぇ)。モニターに表示されるのではなく(物理的に)形に残る手紙であるからこそ、気持ちも時を超えて伝わり、また存在するのかもしれない。

以前にも書いたけれど、振り返る過去というのは何と甘く美しいものなのだろう。
帰省先で偶然出会い、一日を共にする。雨の降る中、東屋で濡れながらスイカを食べ、蛍を追いかける二人。それだけのはずだったのに、都会で再会し、人目を忍んでデートを重ねる。若い二人ではどうしようもない力に引き裂かれながらも、雨の中、街灯を点滅させるジュナの気持ちに、ボクは熱く心を揺すぶられてしまう。あんな一途な気持ちを持つことそのものが、青春の特権なんだなぁ(羨ましい!)。
そんな青春の渦中にいる人、そんな時代を懐かしむ気持ちを持った人。どちらでもいいけど、素直な気持ちでご覧いただければいいのではないでしょうか。

この日は初日。大阪では梅田の三番街シネマ。ここでも一番大きいスクリーンを使っての上映でしたが、お客さんの入りは1/3ほど。大丈夫かなぁ。結構プロモーションして、試写会の回数も多かったのになぁ。ちょっと不安です。
ところで、この三番街の5階にあるスクリーン、なかなか観易いのには驚きました。今まで、巡り合わせが悪くて、ここに入るのは、改装前に「千と千尋...」を観て以来。びっくりしました。いかにも大劇場という感じで、普段ボクが行くことが多い映画館とは雰囲気がまるで違う。なんかとても場違いな場所の来てしまったような、不思議な気がしました。
このところ三番街では、割とアジアの作品も上映されるようになったんだけど、ちょっとはヒットしてくれないと困る。そうしないと上映してくれなくなってしまうよ...。

この映画。「二度観てください」とは申しません。でも、一度ご覧になっても損はしないと思いますよ。

おしまい。