「シルミド/Silmi Island/実尾島」

今、ソウルで最もHOTな作品


  

最高気温が20度を上回り、日本では4月後半頃の陽気だった香港からひとっ飛びで氷点下のソウルへ。
年末年始の飛行機が混んでいるのは日本関係の路線だけで、盆正月のお祝いは旧暦でする日本以外のアジア路線は単なるいつもの月曜日なんでしょうね。すなわちガラガラでした。

インチョンに降り立った瞬間から寒さで身が縮む思い。すぐに空港バスに乗り込み、ホテルへ。今回は二泊だから南山の傍にある定宿の「S」を予約してある。ソウルでは先乗りしていそーさんとは現地集合。ホテルで着替えて携帯を借りて街へ繰り出す。
向かったのはワールドカップのために造られたスタジアム(地下鉄6号線「ワールドカップ競技場駅」1番出口・2番出口でてすぐ)。ここには新しいシネコン(CGV上岩)が出来ている。まずここで「シルミド」を観る予定。でも、苦労して(?)着いたこのシネコンで「シルミド」は深夜まで売切れだった。凄い人気。びっくりしました。これは映画そのものの人気とこの新しいシネコンの人気の相乗効果でしょうね。他にも多くの作品が深夜にかけて売り切れていたもの。
ここではチケットカウンターの前に、銀行に置いてあるような受付番号発券機があり、その番号が表示されたカウンターでチケットを買う方式になっている(この手順を理解するのに2分ほどかかった)。
カウンターの上には、上映される映画別にモニターがあり、上映の回ごとに残席数が表示されている。ボクが観たかった18:20の回は「売切」。その次の19:30の回も「5」。それがボクの順番になる前に、その数字はどんどん減って行き、とうとう「0」になって「売切」れてしまった(ガ〜ン!)。
ここのシネコンはワールドカップスタジアムのスタンドの下の部分を使っていて、とても珍しい施設。次回はもうちょっとウロウロしてみたいものです。

仕方ないから、複数の映画館がある新村へ移動。
どっちにしても、新村で食事をする予定だったからね。きっとミドリ劇場かグランド劇場で(恐らく両方で)「シルミド」は上映されているはず。まず、駅から近いグランド劇場へ(ここは駅のすぐ上にあります)。やっぱり上映中。19:20の回も発売中。早速チケットを確保。そう言えばここでは以前、胸を躍らせて「チング」を観たなぁ。
待ち時間を近くにある現代百貨店で時間を潰す。以前のグレース百貨店の時に較べると、随分垢抜けして来たし、お客さんの数もぐっと多くなった(ような気がする)。地下のカフェでコーヒーを買う。それにしても寒いなぁ。外の気温と屋内の室温とのギャップが大きくて、すぐに風邪を引いてしまいそうだ。

この映画がどんなストーリーなのか、前情報をあまり仕入れないようにしていた。それだけに、受けた衝撃は大きかった。間違いなくお金も時間もたっぷかけた大作だし、丁寧に作られている。
でも、正直に言うと、ボクは何だかもう一つ乗り切れなかった。
それは、特殊工作部隊(684部隊)に同情出来なかったのが大きい。自分たちが生き残るために監視部隊(訓練部隊)を虐殺し、バスを乗っ取る行為に反発を感じたからだと思う。自分たちの中で完結するなら、仲間内で殺し合いをしようが何をしようが構わないけれど、武器を片手に多くの人を巻き込んで事件を起こしてしまうこの行為に「?」が点滅した。
役者さんの顔ぶれはなかなか豪華。ソルギョングは684部隊の隊員。他の隊員には「公共の敵」の刑事班長だったカンシンイル(今回はなかなか若造りだねぇ)、「血も涙もなく」に出ていたチョンジェヨン。監視部隊の将校にアンソンギ、そして下士官に「火山高」の武術(妖術?)に長けた先生のボスを演じていたホジュノ(なかなか存在感がある役者さんです)。

時は1960年代の後半から1971年。ここで語られるストーリーは実話だそうです。
ソルギョングは街で抗争相手を殺してしまう。その結果が死刑判決。そのソルギョングを刑務所に訪ねて来たのがアンソンギ。ソルギョングに「国のために、もう一度生きてみないか」と誘いかける。
ソルギョングは何のことかわからないまま、他の良く似た「ならず者」たちとある島へ送られる。この島こそ「シルミド(実尾島)」。この島で彼らを待ち受けていたのは...。

この684部隊の使命は『北朝鮮潜入』。そのために、死刑囚や終身刑を受けた者などが、戸籍を抹消して集められていた。
なんかボクのイメージでは、北から南へはどんどんスパイが送り込まれているって感じだったけど、南も北への工作員を送り込んでいたんだねぇ(その事実を隠さずにこうして公表しているのはまだマシか)。

この島では、人を人とも思わない。それこそ血もにじみ、死者も出るほどの過酷な訓練が繰り広げられる。
互いに反発しあい、バラバラだったメンバーも訓練の過程で認めあい、友情とは言わないまでも団結や信頼関係が生まれてくる。何よりも厳しい訓練の成果で身体が鍛えられ、射撃の腕前も武術も格段に上達している。
そんな彼らを鍛えたのが、アンソンギが扮する指揮官と、その下士官のホジュノ。この二人がフレームに入っているだけで画面が締まるから不思議だ。

そして、とうとう684部隊に出撃命令が下る。
嵐の中、小舟分乗して海に漕ぎ出す684部隊の面々。しかし、何故かこの命令はすぐさま撤回され、メンバーは島に戻る。
一転して島にはのんびりとした雰囲気が漂う。
半島を取り巻く国際情勢が変化してしまい、政府は北への潜入作戦を放棄する。すなわち、684部隊の存在そのものが否定されてしまった。そしてその後、軍の上層部が下した結論は...。

684部隊の処遇を巡って、アンソンギが上層部に掛け合う。部隊の中でもホジュノともう一人の下士官の間で軋轢が起こる。そしてホジュノは部隊の最後を見届けることなく島を去る。そのシーンはなかなかかっこ良かった。
また、アンソンギのラストも潔かった。684部隊の面々が自決する前に、誇りを持って自分の名を書き残すシーンにもグッと来た。政府の政策転換に翻弄されてしまう多くの男たちに同情もした。
でも、ボクはどうもな。納得いかない。
更にこの映画のラスト。この事件が韓国の歴史の中で省みられることなく、闇の中に埋没していく様をみせつけられてもちょっと同情出来なかった。これはボクの顔の皮が鉄火面で覆われているせいだけではないと思う。
それに、この事件などに対する予備知識の差も小さくないんやろうなぁ。

これだけのキャストで作られ、今韓国で大ヒットしているこの作品、必ず日本でも字幕付きで公開されると思います。ボクも字幕付きでもう一度じっくり観てみたい作品。
是非、ご自身の目でお確かめください。オススメだと思います。

おしまい。