「開往春天的地鉄/SPRING SUBWAY」

男は黙って水道の栓を閉める


  

続けて湾仔の影藝戯院で大陸の作品を観る。
お客さんはまた減って、たったの7人(封切り二日目なのに!)。もぎりのおっちゃんは「こいつ、また観るのか」って顔をしてチケットをもいでくれた。この映画館、いつかわからないけどボクが次に香港へ来るときにもまだあるかなぁ...。
待ち時間がちょっとあった。この晩、香港にしては少し寒かったんだけど、ロビーで待っている間にどんどん人が入って来る。それが何故か皆トイレを借りに来るだけ。何とも不思議な光景だったなぁ。ちなみにこのビルのトイレはここか3階にしかないんだけどね。

今回香港で観た4本の中では一番良かった(ような気がする)。地下鉄を題材にする作品が続いたけどね。
ひょっとしたら、日本でもいつか公開されるかもしれない。

舞台は現在の北京。
二人は7年前に地方から北京へ出てきた。その時地下鉄の駅で、男は女に誓う「必ず、お前を幸せにする」と。そんな忘れてしまいそうな誓いの言葉を、男も女も忘れない。人は忘れることで心の均衡を保っていく動物なのに、二人はこの言葉を忘れない。そして、悲劇が生まれる。

衝撃を受ける。こんな物語りが北京を舞台に語れることに。そして、そう違和感も持たずに受け止めてしまうボク自身に。

7年とは、何とも残酷な時間の経過。
男は、数ヶ月前に職を失ってしまう。女は順調にキャリアを積んでいく。
男は失業したことを女房に切り出せない。毎朝、出勤をすると偽って家を出ると、一日中地下鉄に乗って時間を過ごしている(北京の地下鉄はホームに降りる改札だけがある)。
この男の日常をメインにして、彼が地下鉄の中ですれ違う何人かの男女のストーリーが語られる。

男のプライドと妙な優しさ。それが交錯して素直になれない。
女房がまだ帰らない部屋で、女に話しを切り出す練習をする、なのに、実際に彼女が帰って来るとそんなことはおくびにも出さない、いや「出せない」のか...。
女も夫に話せない秘密を抱え始める。少し前に仕事で知り合った男に強引に口説かれている。彼女の気持ちは揺れている。夫が本当に自分のことをまだ愛してくれているのか、自信が無い。彼は私のことをどう思っているのだろうか? と。

7年も過ぎれば、惚れた腫れたの頃はとうの昔のことか。お互いに口に出さなくてもわかるでしょ。ちょうどそんなことを思い始める頃。
でも、お互いの心が揺らぎ始めたときに、そんな時にこそ言葉による確認が必要になる。そんなことをこっそりと(いや、堂々と)教えてくれる。
耳が聞こえなくて、言葉が喋れない青年は自分の思いをどうやって伝えるのか。事故で一時的に視力を失った娘は、言葉や体温をどう感じているのか。そんなことをさり気なく、それでいて強烈に教えてくれる。
そう、言葉は直接相手に伝えなくっちゃ意味がない。そんな当たり前のことをこの映画は教えてくれる。誰か他の人の口を経て伝えられた時。その時はもう既に手遅れなんだ!

ボクにはこの男の気持ちが痛いほど強烈に伝わって来る。その気持ちわかります!

じりじりとする展開。
そして、垢抜けした男と女。目を見張る二人の住居。そして二人の考え方。
北京に住むひとたちだって、ボクらとなんら変わることはない。皆、悩み苦しんでいるんだ。

決して「いい話し」ではないけれど、チャンスがあればご覧ください。
結局、この作品。僅か二週間で上映は終了してしまいました。

翌日、光頭老さんたちのパーティに混ぜていただき、香港一の素晴らしいハイキングコースである「馬鞍山/マーオーシャン」を歩いて、いい汗を流しました(本当はバテバテだったんだけどね...)。その後、尖沙咀東(チムサーチョイ・イースト)略して「チムトン(尖東)」にある沖縄料理のお店に場所を移していろんな話しに花が咲きました。
今回の香港はちっとも観光や買い物、街歩きはしなかったけど、とっても楽しく充実していました。食事はすべて馴染の店で済ませて、新たな冒険もせえへんかったなぁ。
チムトンでの夜は賑やかに楽しく更けて行き、翌日は国泰航空(キャセイ)で一路氷点下のソウルへ移動しました。

おしまい。