「花」

決して手を離してはいけない


  

この日は冬至。一年で最も昼間の時間が短い日だ。そして、ボクのン回目の誕生日。もちろん、この歳になると、もはや嬉しくともなんともない。
そんな晩に観に行ったのは梅田ガーデンシネマ。今週一週間だけ上映されている「花」。
大きな期待を持っていたわけでも、予備知識を持っていたわけでもない。一回だけ予告編を見て、比較的好きな柄本明が主演なのを知っていただけ。この後、引き続いてレイトで観る予定の「ミトン」までの時間潰しだったのかもしれない。

でもこの映画、なかなか良かった。
こんな形の「愛」もある。そんな当たり前のことを教えてくれ、それを素直に受け止めることが出来た。
激しさなんて微塵もない。掴み所がなくて、にゅるっとしている。淡々と流れていく。
主人公の鳥越(柄本明)が、どんな愛を経験して、終わったのか(いや、まだ終わってはいない)が徐々に明らかになっていく。
この感情を押し殺したような「淡々さ」は、ボクがもう10歳も若ければ理解出来なかったかもしれない。

それにしても、ちょっと前から思っていたけど、牧瀬理穂って上手く歳をとったなぁ。そして芝居も上手くなった。

鳥越が、別れた奥さんの顔を想い出せないなんて「ウソやろ」。
どうして、そこまで自分の感情を押し殺していたのか。なんだかその気持ちがわかるような気がする。
彼女の遺品を受け取り、彼女の気持ちを知って、初めて号泣する。そう、恐かったんだ。もし、彼女が本当に自分のことを嫌っていたらどうしよう、って。
ホスピスから別れた奥さんが亡くなった知らせが届く「哀しかったけど嬉しかった」。その切ない気持ち、痛いほどわかる。
心の底で冷めない思いを温めていた。
彼女が死んでしまったことはもちろん悲しい。だけど、その彼女が自分に何かを残してくれていた、自分を忘れずにいてくれたことが、とても嬉しい。そんな複雑な思いだったのだ。

でも、考え方によっては「どうして?」と思わないわけではない。
鳥越はそんな思いをどうして心の底に秘めたままにしておいたのか。仕事が忙しいのを言い訳にして、ほったらかしにしておいたのか。死んでしまったら、もう愛だの、恋だのではなくなる。想い出になってしまうのに。生きている間であればこそ、再び心が通うのに...。
でも、鳥越はきっと恐かったんだろうな。自分の許を去った彼女と再び対峙するのが、その気持ちもわからないわけではない。ボクが鳥越でも、きっと彼女が生きている間に会いには行けなかったと思う。
表現の方法はまるで違うけど、この「花」が伝えたかったテーマはヴィンセント・ギャロの「ブラウン・バニー」と一緒だったような気がします。

何も劇的なシーンがあるわけではない。ほんとに淡々と進むこの作品。それでも心の芯がぽっと温まるような、そんな掌品です。
梅田ガーデンシネマでは12/26までの上映とは、ちょっともったいないかな。おすすめです。

おしまい。