「チャンピオン」

キムドゥックが背負ったもの


  

「チング」は韓国ではブームを巻き起こすほどの大ヒット作だったけど、日本では正直言ってさっぱりだった。ボク自身もソウルで観たときは心が震えたのに、OS劇場で観た「チング〜友よ」では心は冷えたままだった(残念)。それがどうしてなのか、いずれじっくり考えてみたい。

今回は「チング」のクァクキョンテク監督と「チング」のヒットでスターの座を手にしたユオソンが再びタッグを組んだ作品(但し、この二人この作品の撮影中に仲違いしてしまい、喧嘩別れしてしまったそうです)。この「チャンピオン」。ソウルではそこそこのヒットを収めたようですね。
会場はOS劇場C・A・P。この劇場は座席部分の段差が急で、前の人ををあまり気にしなくてもいいのが良いですね。もっとも、前の人が気になるほどお客さんが入っていることはほとんど無いんやけど...。
何故かモーニングショーのみの上映。ボクが観たのは公開二日目の日曜日。30名ほどの入りだから、こんなもんでしょうか?

なんと言っても目を引かれるのはヒロイン。彼女を観るためだけにでも「チャンピオン」を観る価値があるのではないでしょうか(誉めすぎかな)。
このチェミソンについては、全くのノーマークだっただけにびっくりしました。この映画のためにオーディションで選ばれた新人の方のようですね。とっても美しく、在りし日のシムウナを彷彿させるような、なんとも言えない雰囲気を持っている! 外見だけなら「動物園の隣の美術館」のチュニがそのまま出てきているのかと思った!
今回の役柄では、激しい部分を表には出さず、いつも受身で耐える女性を演じているように見受けましたが、次回作では是非もっと華のある役をお願いしたいですね。期待しています。

いきなり本題からは外れてしまいましたが、主人公はあくまでもユオソン演じるキムドゥック。
この映画はある意味リアリティに充ちているんだけど、ある意味空疎な作品でもある。ドラマは大掛かりだけど、説明の省略が多すぎるように思う。江原道の束草の海岸沿いにある寒村で生まれ育ったキムドゥックがいかにしてそこを抜けだしソウルに出てきたのか。何のためにボクシングを始めたのか。
確かに、観ていればわかる。なんとなくは。きっとこうだろうな、ああだろうな、と。でも、あまりの省略(飛躍?)にこちらとしては、キムドゥックには才能だけであまり努力しないうちにボクサーとしての階段を駆け上がってしまったのではないかと思ってしまう。
それとも、韓国の人は誰でもキムドゥックのサクセスストーリーを熟知しているのだろうか?

世界戦挑戦までにもう少しエピソードを盛り込んでくれないと、観ているボクは彼に感情移入はもちろん、彼を応援することも出来ないよ。
そして降って沸いたようなラブロマンス。チェミソンは一方的に愛されるだけだから、エピソードに厚みや広がりが感じられないのは惜しいな。

なんて書いたけど、ある意味かなり強引にストーリーは展開される。
1982年。成長を遂げつつあった韓国。その国の威信を背負って世界チャンピオンのタイトルマッチに挑んだボクサー・キムドゥック。彼のこの試合をテレビで見て数多くの韓国人が励まされたり、希望を持ったはずだ。「世界は遠くにあると思っていたのに、もうほんの少し頑張れば世界チャンピオンに手が届くのだ」と。

キムドゥックが背負っていたものは一体何だったのかを彼にだけスポットライトを当て描きたかった作品だと思う。
それは、あまりにも彼の心情を吐露する部分が少な過ぎるためだろう。もちろん、口下手で寡黙な青年だったせいもあるだろう。それでも、キムドゥックにも試合に勝った喜び、相手に対する恐怖、チェミソンに対する驚き、などなど感情はあったはずだ。それを全て省略して映画を観ているボクたちに想像して補えというのは、やはり無理がある。
コーチと屋台で酒を飲みながら出自について語り合う、故郷に錦を飾るパレードをし、小学校の校庭で演説をぶつ。そんな生来のハングリーさだけを強調されても、それだけではやっぱりしんどいよ。
彼がラスベガスへ背負って行ったのはそれだけではなかったはずだ。それのもうほんの一部でもボクたちに背負わすことが出来たなら、この映画の出来栄えはもっと違ったものになっていたはずだと思う。

その辺が惜しかったけど、観る前に耳に届いていた評判よりはずっと良い出来だと思う。
特にユオソンの肉体と演技は素晴らしかった。ほんとにいい役者さんになりました。もっとも「アタック・ザ・ガスステーション」のユオソンも好きだけどね(もう、こんなバカな役はしてくれないやろな)。

ボクシング映画として観れば拍子抜けするかもしれませんが、人間ドラマとして観ればそこそこの水準には達していると思います。ご覧になっても損はしないと思うけどね。そこそこのオススメです。
まだ、OS劇場C・A・Pで10:00からの一回のみ上映しています。

おしまい。