「ムッチマ・ファミリー」

印象が後に引く、珠玉の三編


  

相変わらず天候不順が続くこの八月。皆さんお元気にお過ごしですか?
こんなに降って高校野球は今月中に終わるのかな?

さて台風一過、爽やかに晴れ上がり、灼熱の名古屋で観たシネマコリア2003。ここで拝見した三作目は「ムッチマ・ファミリー」。2002年の作品。
この映画についても何にも知らないままに拝見したのだけど、今回、このシネコリア2003で紹介された映画はどれも選りすぐりのものだったけど、この「マッチム・ファミリー」が最も印象に残る作品となりました。
映画は単純に「面白い」ということも大事なファクターなんだ。

簡単に説明すると30分ほどの中編三作「四方に敵」「僕のナイキ」「教会のヌナ〜年上の彼女〜」からなるオムニバス・ムービー。
どの作品にも同じ顔ぶれの役者が脇を固めており、それぞれが全く別のストーリーでありながら、奇妙な連帯感(連作感?)を醸し出している。

「四方に敵」
あるホテル、そのあるフロアで各々の部屋で繰り広げられる様々な人間模様(?)がコミカルに描かれる。
ある部屋では、男がベットで寝息を立て眠っている恋人に灯油をかけ火を放とうとしている。ところが、ライターはオイル切れで火が付かない。フロントに電話をしてマッチを持ってこさせようとするが...。
そのころ向かいの部屋では、刺客にドライバーで背中を刺されたヤクザの親分が静養していた。この部屋に子分が三人訪ねて来るが、トイレが詰まってしまう。フロントを呼びつけ直さそうとするが、どうもお手上げだ。
その隣の部屋にはドライバーを持った男が、虎視眈々とチャンスを狙って息を潜ませている。
その隣りの部屋には不倫のカップルがやって来る。このカップルを追って刑事(?)と警官が押し掛けて来るのだが...。
フロントの若い男がいい味だしてますよ。

「僕のナイキ」
切なくしかし心温まる掌品。時代は1980年ごろか、中学生の主人公は貧しい家庭に育った兄二人姉一人を持つ末っ子。そんな彼が密かに憧れているのがナイキのスニーカー。街にあるナイキショップのウィンドウの前で毎晩眺めている。でも、それを買ってくれとはとても家では言えない。
そんなナイキのスニーカーを秀才で裕福な家庭のクラスメイトが持っている。今日も授業を受けながら自然と目が行くのは彼の机に掛けられているナイキのロゴが輝く靴袋。見上げれば、空に浮かぶ雲があのナイキのロゴに見える。夜道を家に向かう帰り道、輝く月もナイキの形をしているではないか。
倹約を重ね、彼はお金を貯め始める。あのナイキを買うんだ。ようやくナイキが買えそうなほどお金が貯まったある晩の帰り道、彼は薄暗い路地で不良の高校生に呼び止められる...。
ほのぼのとしたラストシーン(おち)がなんとも言えない。

「教会のヌナ〜年上の彼女〜」
あれれ、と思いながらジーンとして、最後にホロっとさせられて、最後の最後に楽しくなる。そんな手の込んだ作品。
兵役に付いて最初の休暇。春川での休日の最終日、かつて思いを寄せていた年上の女性と会うことにした。教会で知り合った彼女に彼は自分の思いを告げられないまま彼女は結婚してしまったのだ。久しぶりに会い、想い出の教会へ行き、映画を一緒に見て、焼き肉をつつく二人。
やがて別れの時間が来た。駅へ向かう二人。男は列車に乗り込む。窓越しに今まで隠していた思いを女に告げる。女も「私もそうだった」と返事をするのだが...。
エンドロールが流れるラストはとっても楽しい。こんな終わり方は最高だなぁ。

とにかく三話とも面白く良くできている。いたずらに上映時間が長いだけの作品が多い中、例え30分ほどの上映時間でも良く練られた脚本と確かな演出があれば、お客さんを充分満足させる映画になるんだ。長編を三本続けて観た満足感がありました。
「四方に敵」でフロント演じていた兄ちゃん(リュスンボン)、どこかで観たなぁと思っていたら「血も涙もなく」で闘犬場でボーイをしていたお兄ちゃんだった。姿をあらわすだけでどこかクスッとしてしまう雰囲気を持っている人ですね。どことなくチャテヒョンに似た風貌。
「教会のヌナ」で最後のオチを取る(?)駅員。「公共の敵」に出ていてボクの好きなタコオヤジだ。嬉しいなぁ、また会えるなんて。
その他、知っている顔がたくさん出演していて、そんなところも楽しめる作品ですね。
日本での一般公開は難しいかもしれません。でも、この作品はビデオやDVDでも充分楽しめるので、チャンスがあれば是非お楽しみ下さい。おすすめ!

さて、今回初めてお邪魔したシネマコリア。良質の韓国映画を紹介して下さる貴重なイベントですね。手作り感覚の家庭的な映画祭で「これからも続けていただければ嬉しいな、来年も是非お邪魔させていただきたい」と思いました。
主催者のソチョンさん、ボランティアの皆さんご苦労様でした。そしてありがとうございました(まだ、東京・札幌が控えているので「お疲れさま」とは言いません)!

次回は、懲りずに観てきた「ヤマムラアニメーション図鑑vol.1 Aプロ」を紹介します(はぁ、溜めるとツライ!)。

おしまい。