「太陽はない」

青春は袋小路


  

日本で未公開の韓国映画が上映されるチャンスはそう多くない。その数少くないチャンスで、しかもボクの守備範囲内で開催される「シネマ・コリア」。去年は別の用事で参加できなかったけど、今年初めて行って来ました。名古屋へ。
大阪から名古屋へ行くには、普通は新幹線ですね。所要時間はほぼ1時間。近鉄特急なら約2時間。JRの在来線でおよそ2時間半(東海道線経由)。関西線経由なら4時間。財布と相談して、行きしなは東海道経由の在来線コース。台風の去った後、分厚い雲が素早く動いている空の下トコトコ行って来ました。

一本目は「太陽はない」。
1998年に公開されています。イジョンジェとチョンウソンが主演の青春映画。青春映画と言えば聞こえがいいけど、どちらかと言えば青春とはもう呼べないかもしれない青春後半のお話し。鬱屈し、閉塞感一杯の韓国の青年像を描いた作品。観ていても、どうも救われないよなぁ。
日本国内での上映だから、プロジェクターで別途投影される日本語字幕付き。有難いことです。

イジョンジェは街のチンピラ。いや、チンピラ以下。いつもカネがなく、借金取りに追われている。珍しくカネが入ると、競馬につぎ込んでスカンピン。仕事は一応、興信所の調査員。
チョンウソンはボクサー。売れないボクサー。チャンピオンの器でもなく、敗戦をきっかけに見切りを付けられようとしている。そして、ボクシングから足を洗う。
チョンウソンがジムから紹介された仕事がイジョンジェの興信所事務所。この二人は組んで仕事をすることになる。

初対面の二人が生年月日を言い合うシーンは面白い。韓国では一年でも年上だとそれだけで上下関係が決まる縦社会。「俺が年上だ」と偉そうにするイジョンジェに「登録証を見せろ」というくだりは、なるほどと思った。

なんとかその日を暮らす二人だが、調査相手に賄賂を要求していることがバレて興信所をクビになってしまう。イジョンジェは相変わらずの生活だが、チョンウソンはボクシングがどうしても忘れられない。ジムに舞い戻り再起を目指すのだが...。
そこに登場するのがイジョンジェの知り合いのモデル、ミミ。

後半はこの三人が絡まりあいながら、ソウルの横丁で明日を夢見ながらもがきうごめく姿が映しだされる。
上手く糸口を掴みそうになったミミに絡むチョンウソンの姿は、彼女に対する恋愛感情だけではなかった、嫉妬も混じっていたのではないか?
何度も縁を切ろうとしたチョンウソンとイジョンジェ。二人して宝石屋を襲い逃げ出した海岸で見つめた朝日の眩しさは何だったのか。

やり直したくても、やり直せない。縁を切りたくても切れない。何年かしてから振り返ったら、泥沼でも何でもなく単にぬかるみに足を滑らしただけだと思うのに、今この時を濃厚に生きている若者には、永遠に抜け出せない泥沼に首までどっぷり漬かっていると錯覚してしまう。そんな「青春」のあせりと鬱屈感。それがとても上手く表現されている。
この映画を観て「懐かしさ」を感じるボクは、もう既に青春を失っているんだなぁ。きっと。

なかなかイイ作品ですが、一般に公開されるチャンスはそうないでしょうね。イジョンジェは、日本でそこそこ人気があるから、ひょっとすればビデオやDVDで発売になるかもしれません(期待薄だけど)。
チャンスがあればご覧になることをおすすめします。

この映画でチョンウソンがノジョンユン(以前サンフレにいた韓国のサッカー選手)、イジョンジェがチェヨンス(現ジェフの韓国代表ストライカー)に見えて仕方なかったのはボクだけですか?

おしまい。