「シティ・オブ・ゴッド」

圧倒されっぱなし


  

予告編を初めて観たときから凄く気にはなっていたんだけど、妙に生々しい映画のような気がして、正直に言うと「ちょっと気が進まなかった」。でも、耳に入ってくる情報によるとなかなかイイ作品らしい。どうしようか迷っていた。

すると、サンフレ応援のための広島遠征が決定し、その日鷹野橋のサロンシネマでこの映画を上映しているらしい。こうなったら観るしかないだろう。
朝早く拙宅を出発し、まず岡山へ。ここで時期的にはちょっと早いけど桃を買う。7月の中旬から8月初旬まで、岡山は桃のシーズン。今年は梅雨が長引き、糖度が低い上に形も不揃いらしい。例年だとこの時期には出ている「清水白桃」はまだで、早生の「白鳳」しか並んでいない。それでも桃は桃。直売所で数箱仕入れた。クルマの中は桃の甘い香りが充満して「う〜ん、シアワセ!」。
で、お昼前にには広島市内に到着。食事を済ませ鷹野橋へ。

カオスと言うか、無秩序とは何か。そんなものを垣間見せてくれる映画。

ドキュメンタリーのようでいてドラマ。恐らく、実話ベースなんだろうけど各々のエピソードはかなり脚色してあるのだと思う。そういう意味では「仁義無き闘い・ブラジル版」という捉え方も可能だと思う。
ひとつ気になったのは、あまりにも簡単に人の命が奪われていくことだ。奪われる命には、親もいれば兄弟や友人もいたはず。それらはすっぱり削り取られている。あくまでもドラマはメインストーリーにのみ沿って展開されていく。傍らで拳銃で撃たれる者は、人間ではなくモノ扱いだ。
独白を続ける主人公でさえ兄の死を「仕方がない」と達観した意識で捉えているのは、驚きを通り越してしまう。
そんな独特の環境に順応してしまう“神の街”の住民を「凄い」と思うのか、それともそれともこの街から抜け出すことを許さないブラジル社会を「凄い」と思うのか、その判断は難しい。

「弱肉強食」
この言葉を地で行くスラム街。それが“シティ・オブ・ゴッド(神の街)”。
この街が形成されていく過程をとこの街でのし上がっていく若者を追いながら、この街と共に成長していく若者の視点を借りて語られていく。
この街にある権力の象徴はただ一つ「強さ」。善悪や倫理観など存在しない。強い者だけが生き残り、弱い者は淘汰されていくか、隷属して生きるしかない。
この街の黎明期に幼少時代を過ごした、リトルダイスことリトルゼがこの街を牛耳っていく様子が鮮やかに点描されていく。このストーリーを語るのは、リトルゼとほぼ同世代で同じくこの街で育った写真家志望のブスカベという少年。
この作品のキーワードは、貧困、強盗、麻薬、抗争...。

一見、重そうな作品なのに、見ているこちらにはその重さはそう伝わって来ない。
確かに、血を血で洗う生臭く過激な内容であるのには違いない。また、その多くが大人ではなく、まだ若い連中が引き起こしている事実に驚くしかない。それでも何故か重々しさを感じない。これは、ちょっと悪趣味な「覗き見」をしているような感覚。自分は安全地帯にいて、そこから驚くべき所業の数々を「眺めている」そんな感じなのだ。
もうひとつ。この若者達から絶望感や寂寥感が全く伝わってこない。この街に住む人々には、まるで悟りを開いたかのような達観した空気が流れている。殺す側にも殺される側にも。
そんな感じで、ただただ圧倒されっぱなしで、唖然としながら眺めているうちにこの映画は進行していき、終わってしまう。

理由は要らない。
見るべし!

おしまい。