「神に選ばれし無敵の男」

宗教の絵本?


  

叩きつけるような雨が降る晩に向かったのは、Loft地下にあるテアトル梅田。かっぱ横丁からテアトルへ行くだけでズボンの裾はびしょびしょに濡れてしまった。そんな晩にも係わらず20名ほどのお客さんとは立派。

ほとんど予備知識を持たずに観た。ポーランドやドイツが舞台なのに英国映画だからなのか、みんな英語を喋っているのがなんだか奇異に感じた。観ていて思い出すのは「道」。そして全体から醸し出される雰囲気は「テルミン」に似ている。
しかし、この映画で扱っているテーマは軽いものではない。邦題からはユダヤ人の選民思想の香りがプンプンしてなんかイヤな感じ。もっとマシなタイトルはなかったのか、それとも原題もそうなのだろうか? それでも、冒頭の食堂でのシーンで、観客は何となくユダヤ擁護の気分にさせられてしまう。主人公ジシェはともかく、彼のよく出来た弟はかわいいもんね。それに、1930年代にポーランドに暮らしていたユダヤ人の人たちがその10年後どのような運命を辿るのか容易に想像がついてしまうのも、その理由の一つ。
結局、何か。この映画はこの力持ちの青年ジシェが、時代に迎合してナチスの圧力に屈せず、それに立ち向かい、その志半場にして不慮の事故に出会ってしまう。それだけを描いているのか?
それにしては、仕掛けもお粗末だし、登場するサイドストーリーも弱い。特にハヌッセンについてはジシェと対極に位置する人間として描いているんだろうけれど、ちっとも神秘的には見えなかった。舞台のハヌッセン、経営者としてのハヌッセン、ユダヤとしてのハヌッセン。この三つをもっと対比させながら描かないと、ハヌッセンは単なる俗物にしか過ぎない。
上手かったのは、田舎かからはるばる出てきたジシェがベルリンの都会に戸惑う姿。このシーンは面白かった。もう少しこの線で追って、徐々に都会の暮らしに慣れていく様子を描いてくれれば良かったのに。ベルリンでの彼の生活シーンは一切省略されているのは何故なんだ?

全てにおいてあっさり描かれ過ぎている。特に後半、ジシェが「身に降りかかるかもしれない大きな危険」を予知(?)する部分。ここはあっさりを通り越して、あまりにも唐突で何がなんだかよくわからなかった。ここは大事なことだけに、もっと丁寧にわかりやすくかつ劇的に扱ってほしかったな。
そうしないと、故郷に帰ったジシェが、どうして白い目で見られながらもあんなに運動したのか、それがちっとも理解できないょ。彼が信心深く誠実で真面目な人間であることは理解できた。それにその後東欧に住むユダヤ人に降りかかる悲劇も知っている。だけど1930年代に住む他の人々にも、この映画を観ているボクにも、何が彼をそこまで動かしたのか。この大切な一点がまるで伝わってこなかった。惜しいな。

本来、ジシェの存在とハヌッセンの存在は別のお話しで語るべきだったのではないでしょうか? それを無理やり一つの作品に押し込めてしまったところに無理があったのかなぁ。
なんだか独善的な宗教の絵本を見せられている、そんな気がして仕方なかった。
オススメはしませんが、チャンスがあればどうぞ。テアトル梅田での上映は先週一杯(7/4)で終了してしまいました。

おしまい。