「花の影」

貴方は私を愛していたの?


  

このごろ何故か映画を観に行くのが少し億劫になっている。特に梅田以外の劇場だったり、レイトだったりすると二の足を踏む。それは、だんだん蒸し暑さが増しているせいなのか、それとももっと別な理由なのかは、自分でもよくはわからない。
この日も「今日は辞めとこうか」と思っていた。すると、携帯に「お誘い」の電話が入る。こうなると嬉々として千里中央まで行くのだから不思議なものだ。

この映画は以前に観ている。それがいつどこの映画館だったのかは、何故か思いだせない。ストーリーもおぼろげにしか憶えていない。ただ、鮮明に記憶しているのは、家名を施した大きい提灯とレスリーの衣装。それもシネピピアでこの映画の予告編を見るまですっかり忘れていたんだけどね。そうそう、北京でチャイナボタンの上着を探したなぁ。レスリーのようになれるんじゃないかと思って。お店の人に説明すると、何故か人民服を売っているコーナーに連れて行かれたっけ...。

劇場を千里中央にある千里セルシー・シアター移して続くレスリーの追悼上映。ここでは今回ご紹介する「花の影」を含めて4作品上映される。「カルマ」「ボクらはいつも恋してる!/金枝玉葉2」そして「楽園の瑕」。「カルマ」はもう観ないけど、「ボクらはいつも恋してる!/金枝玉葉2」は見逃せないし、「楽園の瑕」ももう一度観たい作品。

なんとも哀しい男の物語りだ。
レスリーの役どころは20年代のジゴロ。その美貌を武器に、上海の女たちをワナにはめては、お金を巻き上げる。そんな彼が何故か二人の女性をほんとうに愛してしまう。そして、悲劇が生まれる。

それにしても江南のパン家(スイマセン“パン”は日本語にない漢字なのです)は凄い。解放前の中国においての貧富の差は、今では考えられないほどだ(いや、ひょっとしたら現在ではもっと凄いかもしれないけど)。桁外れの大金持ちだったんだろうな。
その家に嫁いだ姉を頼って、まだ幼い忠良はここにやって来る。この屋敷で彼を待っていた生活は、正室の弟という立場ではなく、使用人としての生活だった。そんな毎日を嫌い、進学を口実にこの屋敷を飛び出してしまう。出発する前日、義兄のアヘン吸引機に水銀を忍ばせて...。
やがて成人した忠良は、黒社会の一員として上海の夜を闊歩している。彼の仕事は夜な夜な夫ある人妻と逢瀬を楽しむこと。相棒と示し合わせて、密会の現場に踏み込ませ、人妻から口止め料を頂くという寸法。逆美人局。しかし、忠良は香天街(だったかな?)に住む人妻と逢瀬を重ねるうちに、ずるずると関係を続けてしまう。そう、いつの間にか彼女を愛してしまっていたのだ。組織の老板がそんな関係を見逃すはずがない。老板は冷却期間を置くために「パン家へ行って来い」と指示を出す...。

もちろん、レスリーの職業に「倫理観」などない、あるのは「掟」。
その掟を破りそうになった忠良はパン家を訪れ、家督を継いだ如意(コンリー)を誘惑する。しかし、そこに目に見えぬワナが潜んでいようとは夢にも思わなかっただろう。
あまりにも愛されることに慣れすぎた男にとって、自ら誰かを愛することに対して初(うぶ)すぎたのだ。

変幻自在の妖艶さをみせるコンリーにはくらくらしてしまう。後半はレスリーの映画ではなく、コンリーの映画だ。
都会の洗練された男にのぼせあがる純な田舎娘から、ふてぶてしい態度で男を見下す熟れた女までを見事に演じていると思いませんか? お見事! 凄い役者さんです。

今週の木曜日(6/26)までレイトショー一回のみの上映です。 鏡やガラス窓、カーテンが巧く使われていると思ったら、撮影はクリストファー・ドイルだった。やっぱりなぁ。
記憶どおりレスリーの衣装はなかなかカッコいいですよ。一見の価値あり!

おしまい。