「我が心のオルガン」

60年代の江原道で初恋


  

韓国の女優さんは綺麗な方が多いけれど、かわいくてなおかつ演技力が抜群に備わっているのはチョンドヨン。この人、ほんとにかわいい方なのだ。今まで彼女が出た映画は「接続」「私にも妻がいたらいいのに」「血も涙もなく」と拝見してきた。「血も〜」は正直もう一つだったけど、「接続」「私にも〜」はいい映画だし、彼女の魅力がよく発揮されている。
前回に引き続いて関西韓国文化院で拝見したのは「我が心のオルガン」。前回同様にビデオでの上映で字幕はない。若干画面が不鮮明な部分もあるけれど、十分許容範囲。なにしろ、この映画を観たくて仕方なかったから、少々のことは気にならない。

主役はチョンドヨン、イビョンホン、イミヨン。
そして、なんともメッセージ色が薄くて、毒にもクスリにもならないストーリー。
しかし、この映画面白いのだ。

難しい理屈とか、そんなのは抜きにして、観ていて面白く、楽しい。そして遥か彼方に過ぎ去った「初恋」への郷愁を誘う。この映画をどんなふうに受け止めるかはその人の年齢や、育った環境そして体験によって大きく変わると思う。
役者たちがどんな台詞をしゃべっているのか、そんなこと一言も理解できなくてもこの映画は理解できる。それどころか、何の予備知識を持っていなくてもOK。画面からだけで充分理解できる(もちろん、セリフが聞き取れればなおイイんだけど)。
おかっぱ頭でノーメークで画面狭しと駆け回る光景は、チョンドヨンが撮影当時、25歳前後だったことなんて気が付かない。ちょっと身体が大きな小学生がいるっていう程度(これは驚きだ!)。

江原道の山の中にある小学校のクラスが、新米教師を担任に迎えて新しい学年をスタートさせる。そこで繰り広げられる数々のエピソードは、必ず一つや二つ誰にでも覚えがあるような出来事。数あるエピソードの中でもチョンドヨンがこの先生に憧れにも似た淡い恋心を抱くエピソードを主軸に据え、その対向にイビョンホンが同時に赴任してきたイミヨンへの想いが描かれる。
この映画には、勉強が出来るとか出来ないとか、成績がどうのなんてお話しは一切出てこない。それ以外の学校生活(若干常軌を逸する部分はあるけれど)がいきいきと描かれる。
先生を迎える廊下に蝋を塗ったり、教室の扉に黒板消しを挟んだり、白墨入れに小鳥を入れたり...。幼い赤ん坊をおぶって登校してきて、授業中におしめを替える。おじいちゃんが忘れ物を教室まで届に来る。貧しくてお弁当を持って来れないから空腹を紛らわすために水を腹いっぱい飲む。遠足のお弁当代わり(?)に生きたままのニワトリをカバンに入れて持って来るのには「驚いた!」。

チョンドヨンは日記に先生(イビョンホン)へのラブレターを書き綴る。日記を先生がチェックするからだ。先生も彼女の日記を楽しみにしている。
そんなことをしながらも、イビョンホンの感心はもっぱらイミヨンへ向いている。彼の空想シーンは何だか吹き出してしまいそうなほど可笑しい。
ほんと毒にもクスリにもならないんだけど、心がほんわかしてくる。それだけ、演技も見せ方も「巧い」んだなぁ。

韓国における江原道(カンウォンドォと読みます)の位置付けは良くわからないけれど、韓国人がイメージする田舎は、すなわち江原道なのかなぁ。この作品に限らず、韓国の映画には「田舎=江原道」という舞台設定されていることが多い。
この作品は、1960年代初頭が舞台になっている。2000年代前半が舞台になっている「先生、キムボォンドウ」と見較べてみると面白いかもしれません。
この映画は、かつて福岡の映画祭で一度上映されただけのようです。次回観るチャンスが巡ってくるかどうかはわからないけれど、そんなチャンスに恵まれたらお見逃しなきように! オススメです。
韓国映画にしたら珍しく、エンドロールにひと工夫されています。でも、本編が終わったらそそくさと座席を立つ習慣がある韓国で、このエンドロールを何人の方が観たのかは疑問。
しかも、ここは余韻だけにとどめておいた方が良かったのでは? なんて思ってしまい、いささか蛇足だったかも。

おしまい。