「過去のない男」

静かに燃える大人の映画


  

がらっと変わって、静かな大人の映画。
この映画、ボクが20代だったとしても理解できたのだろうか?
昨年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞した作品ですね。

ストックホルムは物騒な街。夜行列車に揺られてこの街に着いたM、駅の近くにあるベンチで夜明けを待つ間についつい居眠り。そこへ三人組の暴漢が現われ、Mはバットで殴りかかられ身ぐるみ剥がされてしまう。
担ぎ込まれた病院で死亡を宣告されるが、何故か息を吹き返し、むっくり起き上がると病院を抜け出してしまう。ところが、そのまま行き倒れてしまう。

Mは記憶を無くしている。言葉はしゃべれるが、自分の名前も家もわからない。そう文字通り「過去を無くした男」になってしまった。
Mは海辺の貧民窟の住民に拾われる(いや、介抱される)。そこはコンテナを改造したバラックが並んでいるだけ。やがて元気を取り戻したMは働こうとするのだが、名前もわからなければ、社会保険番号もわからない彼には手続きのしようがない。
そんな時、友人に誘われて「ディナーを食べに」出掛けたのは、救世軍の炊き出し。Mはここでイルマと出会う。彼女は救世軍の戦士。
Mはこの冴えない中年にさしかかったイルマに何故か心を惹かれる。彼女は、九千軍の事務所に寄付された服を取りに来ないかと誘う。そして、Mとイルマの穏やかで控えめな交流が始まる。

この映画には、たいそうな事件は起こらない。起こるのはMが記憶を無くすことと、あることをきっかけにMの過去が明らかになるだけ。
それなのに、じわじわと心に染み込む感動を持つ作品に仕上がっている。観客を画面に惹き付けることや感動を増すために必要なのは、過度なラブシーンやアクションだけではない、そんなことをそっと教えてくれているのかもしれない。
イルマの眼差しや仕草だけで、彼女の恋心は充分伝わってくる。

いい映画。まずまずのおすすめ。
映画中に使われている音楽もいい(ほんとにイイのかどうかはわからないけれど)。静かに燃える大人の映画です。
もうしばらく、新梅田シティの梅田ガーデンシネマで公開中。水曜のレディスディだったせいか、この日の最終回はほぼ満席の盛況でした。意外と若い女性が多かったけどね。

おしまい。