「母と娘」

フィリピンの国民映画だが...


  

フィリピンの映画は昨年拝見した歴史大河ドラマ「ホセ・リサール」以来。今回の「母と娘」もまじめなテーマを扱ったもの、フィリピンでも恐らく様々なジャンルの作品が制作されているのだろうが、たまたま重厚な作品が日本で上映されただけだと思う。一度「おもろい系」を観てみたいな。
もう随分前になるが、杉田二郎や加藤登紀子が日本語でカバーしていた「ANAK」という歌をベースにして作られた物語。本国では歌同様映画も随分とヒットして「国民的映画」だったそうです。曲の歌詞は、両親と息子が歌われていたけれど、映画では母親と娘が主人公。この二人の心のすれ違いと邂逅を描いている。

この映画を語るには、まず香港へ飛ばなければならない。
日曜日の午前中。香港島の中環、皇后路からスターフェリーの乗り場へ通じる渡り廊下。この辺り一帯に物凄い数のフィリピンからの出稼ぎ労働者たちが集まっている。その数は数百人ではなく、数千人というレベル。その99%は女性、その多くは香港の家庭でメイドとして働いているらしい。彼女たちの休日で仕事から解放される日曜に自然とここに集まるようになったのだという(九龍サイドにもそんな場所があります)。ここでは様々な物資の売買も行われているようだが、メインは果てしないお喋りと情報交換。そして友人同士や同郷の者が集まり、その光景は「かしましい」なんてものじゃなく、ちょっと異様ですらある。
この光景は、もう20年以上前から続いているという。香港や台湾ではメイドに成り手がいないことと、より安価な労働力を求めていること、そして何よりもフィリピンという国家の経済が国外出稼ぎ労働者からの送金で成り立っている事実がある。今や、韓国・香港・台湾はアジアからの出稼ぎ労働者を合法的に受け入れている。そういえば、かつての日本でも「3K」と呼ばれる仕事を外国人がしていましたね(彼らは合法的に働いているのではなかった)。まぁ、それはさておき...。
およそ一万人を超える女性がメイドとして香港で働いていると言うことは、彼女を待つほぼ同数の家庭がフィリピンにあると言うこと。その多くはまだ幼い子供を祖国に残して働きに来ている。

ジョシーもそんな一人だ。もう6年も家族を残して香港で働いていた。そして、とうとう香港での仕事を切り上げて、マニラへ戻ってきた。
初めて香港に行くときにはまだ赤ん坊だった末の娘はもう小学生。息子は立派に大きくなり、奨学金を貰い私立の高校へ進学している。空港に迎えに来たこの二人を母親は見分けられないほどだった。
三人の子供のうち、一番上の娘・カーラが空港へ来ていないのがちょっとした気懸かりだった。
山のように積み上げたお土産をクルマに載せ家へ向かう。
ちょっとした行き違いからカーラの心の中には母親に対するわだかまりが生まれ、それが押さえきれないほど大きくなっていた。そしていつしか「自分は母親に置き去りにされた」と思い込んでしまう。ジョシーは家族を置き去りにして香港へ行き、愛する夫の葬儀にも帰ってこなかった。
ジョシーは、事情はカーラには手紙で伝えてあり、娘は自分を信じていると思い込みたかった。しかし、いくら母と娘でも毎日顔を会わせていない悲しさ。カーラとの間に溝が出来ていることに気がつかない。

家に帰っても、ジョシーを避けるカーラ。
その不満を爆発させたジョシーに対して、怒ったカーラは家を飛び出してしまう。
息子は息子で問題を抱えている。しかし、母と姉の衝突を見せられ、話しを切り出せない。
思ってもみなかった家庭の惨状にジョシーは頭を抱える...。
自分が歯を喰いしばって頑張ってきた香港での6年間は何だったんだろう?
しかし、母の子供に捧げる無償の愛、そして時間が問題を解決していく。決してスマートな解決方法ではなかったけれど、ジョシーのこの一家にはこういう解決方法しか無かったのかもしれない。
そして、最後にジョシーが選んだ道は...。

カーラを演じている女優さんはなかなかいい。次回はもっとかわいい役でお目にかかりたいですね。ボクが気に入ったのは、カーラに憧れる同級生の男の子。誠実な役柄で得してるけどね。
フィリピンの女性たちのバイタリティと底抜けの明るさ、そしてエネルギッシュなおしゃべり。ほんとに圧倒されてしまいます。香港から持ち帰って来るお土産の量も半端じゃない!
しかし、この家はどうなっているんだ? カーラは大学(?)へ進学しているようだし、決して生活レベルは低いように見えない。お金は無くても、家族4人が一緒に暮らす道を選択したほうが良かったんとちゃうのかな? それともこの部分こそが、フィリピンが抱える経済構造の問題点なんだろうか?
ある意味感動出来るけど、納得はできない、そんな作品だったように思います。

梅田のOS劇場C・A・Pで5/23(金)まで上映中。
平日の最終回に行きましたが、上映が始まるまでお客さんはボクだけ。とうとうここでも記録更新かと思いましたが、予告編を上映中にもう一人入って来ました。
興味をお持ちの方はお急ぎくださいね。

おしまい。