「ミッシング・ガン」

自分が自分でなくなる恐怖


  

最近よくお邪魔するようになった動物園前のシネフェスタ4。この日は月曜のメンズ・デー(男性は1,200円)。観たのは公開から3日目の「ミッシング・ガン」。時間は18:50からの回。お客さんは、ボクを含めて2名のみ。大丈夫かなぁ。ちょっと心配になってしまいます。ボクとしては、空いていて観易い劇場なんだけどね。これだけお客さんが少ないと、もうアジアの作品を上映しなくなってしまうのではないかと、ホント心配してしまいます。

さて「ミッシング・ガン」。 これまた、従来の大陸映画とは一線を画したスタイリッシュな作品。スピード感や細かいカット割りなど、とにかく泥臭さがなく、かっこいい映画に仕上がっている。そしてもう一つ見逃せない点は、一見拳銃の盗難事件(?)を追いかけているように見せかけておいて、拳銃は象徴にしか過ぎず、実はこの映画のテーマは違うところにあるという凝った作りが、大陸の映画にしては斬新。

まぁ、小難しいことはともかく、この映画、なかなかかっこイイ。
主演は、今や中国のトップスターの感すら漂うチァンウェン(いい感じに年を喰ってきた!)。奥さんには「栄光のフォワードNo.9/女子サッカーに捧げる」で主演していた人。元・恋人には「太陽の少年」で少年のアイドル(?)を演じ、「上海グランド」でヒロインを演じたニンチンが出ている。

警察官をしているマーシャン(チァンウェン)は、ある朝妻に起こされ、服を着ている最中に自分のホルスターに拳銃が無いの気が付く。真っ青になって家中を探し、息子の通学カバンまで開けさせるのだが出てこない。どこかで失くしてしまったのか、それとも盗まれたのか...。
祈るような気持ちで出勤し、自分のロッカーを開けてみるが、そこにもやはり彼の拳銃は無かった。
マーシャンは昨夜自分の妹の披露宴に出席していて、したたかに酔いつぶれて自宅に帰ってきたのだ。
妹の新居をはじめ、その披露宴に出席していた人々を訪ねはじめる...。
こうして彼の自分の拳銃を探す旅(?)が始まったは。

舞台になっているのは中国の南部・貴州省にある田舎町。石畳の路地、立派な門、一歩郊外に出れば水牛が鋤を引いているのどかな農村。いい風景。一度訪ねてみたくなる。
ボクが気に入ったのは、マーシャンが仲のいい友人と村の広場(?)で話しをするシーンだ。細かくカットが割られそれごとにマーシャンのいる場所がどんどん変わる。これいいなぁ。

拳銃を失くしたマーシャンは、署長からキツイお叱りを受けた後に「制服を脱いでいけ」と言われる。彼の権威の象徴であった拳銃と制服を剥ぎ取られて、もはやマーシャンではないのかもしれない。拳銃を見つけ出すことこそ、今までのマーシャンを取り戻す唯一の方法だ。

マーシャンは銃を探す旅の途中で、何を見て何を感じたのか。
裁ち難いとさえ思っていた以前の恋人への想いだったのか? それとも自分の家族への深い愛に改めて気付いたのか? 今まで何気なく過ごしていた日常の大切さを思い知らされたのか?
つまるところ、人間はいったい何のために生きているんだろう? 今までの日常生活を取り戻すためにこうして必死になって旅をした果てに、彼を待ち受けていたのは...。

まぁ、難しく捉えて考え込むような映画でもありません。アクションと言うよりもヒューマンドラマと言うべきこの作品、さらっとご覧になって、そして「中国の映画も変わったなぁ」と思っていただくだけでOK。
5/23まで上映していますので、是非シネフェスタへ足をお運びください。

おしまい。