「「あの子を探して」が出来るまで」

舞台裏を覗き見る


  

心斎橋にやって来ました。となると、パラダイスシネマ亡き今では「心斎橋シネマ・ドゥ」しか劇場はない。土曜日の午前中、しかも冷たい春の雨が降っている。それでも大阪一の繁華街だけあって、そこそこの人出だから、やっぱり心斎橋はたいしたものです。
この日初日を迎えたのは、チャンイーモウ監督の「あの子を探して」のメイキング、「「あの子を探して」が出来るまで」。関西ではここだけで、モーニングショウのみの上映。でも10名少しの入りとはちょっと淋しい。そう言うボクも行こうかどうか迷っていたところ、ラッキーにも招待券を頂戴したのでこうして足を運んだんですけどね。

「あの子を探して」は心温まる作品だった。スターがキラ星のように出演しているわけではなく、地味で素朴ながらもその筋運びで見せる映画。出ているのもほとんどがプロの俳優ではなく、素人さん。こんな映画をチャンイーモウ監督とその仲間がどうやって作り上げたのかを、その舞台裏から覗き見させてくれるのがこの作品だ。
一本の映画を撮るのには、映画を観ているだけのボクからは想像を絶する苦労と忍耐が必要なのが手にとるように分かる。とてもじゃないが、生半可な気持ちでは作り上げることが出来ないんだなぁ。

もっとも印象に残っているのは、チャンイーモウの言葉「人は研いでいないと、すぐ鈍る。ボクは研いで、研いで、研ぎ続けているから、誰にも負けない」。その凄い自信にも驚いたけれど、それよりも「あぁ、ボクは研いでいないなぁ」なんて思ってしまった。だからもうすっかりナマクラになっているんだ(ちょっと、反省)。
さらに、チャンイーモウ監督が、どこか暖かみがあり、偉そうにしていない点も印象に残りました。この映画を撮る時点で既に「世界的巨匠」であったにもかかわらず、自らロケハンに走り回り、質素なトレーナーやTシャツで演技を付ける。食事や宿舎だって他の人と同じだ。もっと偉そうにしていても不思議じゃないのに。
ちょっとドキッとしたエピソードは最後にやって来る。「あの子を探して」の成功で、各地をプロモーションや挨拶で飛び回る主演の二人(ミンジとホエクー)を前にして「天狗になるな。勉強を頑張れ」と諭す場面。特にホエクーに対しては「高校に合格するまでは、もう会わない」と言い渡すシーンには迫力がありました。
ボクは「あの子を探して」以外ではこの二人にはまだ出会っていないけど、たくましく(美しく?)成長した二人に再びスクリーンで出会えることを確信しました(「變臉(へんめん)」で主演した少女は映画出演の後に割と悲劇的な人生を歩んだと聞いていただけに、なんだかホッとしました)。

もちろん本編の「あの子を探して」をご覧になっていないと、おかしくともおもしろくともないこの映画。でもご覧になった方であれば、大変興味深く観ることが出来るでしょう。
なんだか舞台の袖からステージを覗いているような、そんな作品です。お時間があればどうぞ。4/18まで心斎橋のシネマドゥで朝11:15からの一回だけの上映です。

おしまい。