「至福のとき」

夢とははかないものだ


  

チャンイーモウ監督の新作。
前作「初恋のきた道」ではチャンツィーがデビューを飾り、今作ではドンジェが控えめなはかなさを披露している。

「初恋がきた道」ほどの感動と涙を期待すると裏切られる。
確かにドンジェは抱き締めたいほどかわいいし、か細くてひ弱だ。だけど、この物語には救いが無い。あまりにも落とし所が無い。
映画が終ってから、こんな中途半端な気持ちにさせれれて、この気持ちを一体どこへ落とせと言うのだ。

このこんな気持ちこそ、現代の中国が抱えている問題そのものなのかもしれない。
改革開放政策で沿岸都市は熱く変革を遂げている。めまぐるしく変貌する街の様子に多くの人々も時代に乗り遅れまいと熱狂する。しかし、実際に富みを手に入れることに成功したのはほんの一握りの人たちだけだ。
人民はふと自分の足元を見たときに、自分は何も変わっていない、それどころか自分の生活は一層苦しくなっていることに気付く。今まで夢見ていたうなされているような熱は醒め、正気に戻った時に、自分に残されている物、自分が手にした物は何だったかに気が付く。
誰が悪いわけではなく、文句を言うなら国家に、党に言うべきなのかもしれないが、それは出来ない。
ドンジェが視力回復のための手術を受けられないのも、チャオが結婚出来ないのも、誰のせいでもないのだ。そしてどこへも持って行きようのない怒りが自分の身体を貫くのを知る。悲しい映画だ。

もう50に手が届こうかというチャオは、勤務していた国営工場が閉鎖され無職だ。悲しいかな彼はまだ結婚していない。18回目のお見合いの相手に「自分は旅館の共同経営者だ」とウソをついてしまう。この見合いの相手には先夫が残していった盲目の少女ウーイン(ドンジェ)がいて、彼女はウーインを邪険に扱っていた。彼女は旅館でこの子を雇ってくれと社長に押し付けてしまう。人がいい上にどうしても彼女と結婚したいと考えているチャオは同じ工場で働いていた同僚たちと相談して、ウーインのために工場の跡地に偽の按摩室を作るのだが...。

ウーインのためにチャオが買ってやる赤い花柄のワンピースが印象深い。
チャオの優しさに包まれて、とげとげしかったウーインがどんどんかわいくなっていく様子が手に取るようにわかる。

このまま夢を見させてよ!

北京や上海ではなく大連が舞台になっています。
そんなにおすすめではないけれど、ひどい映画でもありません。現代の中国に興味をお持ちの方は是非どうぞ。
冒頭のバスを改造して「旅館」を作るアイデアはなかなか秀逸。ドンジェには次回はもっと健康的な若若しさを発揮する作品で逢いたいですね。

チャンイーモウの次回作は「英雄〜HERO」。この6月に日本でも公開予定。この作品には香港の大スターがこぞって出演しているのでお見逃しなく!

おしまい。