「たそがれ清兵衛」

すがすがしさが残る感動作


  

鮮烈ですがすがしい映画を観た。
エンディングちょい手前のクライマックスでは涙が流れて止まらなかった(いや、お恥ずかしい)。
真田広之、宮沢りえがごっついいい。何時の間にかこの二人いい役者さんになったもんだ。
ボクが観たのがロードショウ最終日だったので、もう大きな映画館では上映していないと思うけれど、この映画はオススメです。

時は幕末。東北にある小さな藩・海坂藩が舞台。この藩に仕える下級武士が主役の真田広之演じる井口清兵衛。御蔵方を勤めている。武士とは言っても形ばかりで、しているお役目は現代の公務員やサラリーマンとなんら変わらない。
清兵衛は最近妻を労咳(結核)で長患いの末亡くしている。家にはボケてしまっい息子さえわからなくなっている母親とまだ幼い娘が二人。もともと貧しい上に妻の薬代や葬式費用の捻出で借金がかさみ、夜なべで竹細工に励む日々。着るものや持ち物には注意を払わず、付き合いもしない。終業の太鼓が鳴ると一直線に家へ帰る日々。御蔵方の同僚たちはそんな清兵衛を揶揄して「たそがれ清兵衛」あるいは単に「たそがれ」と陰で呼んでいた。
清兵衛は出世は望まず、貧しくても畑で野菜が育つように娘が日々成長してく様子を眺めているのを好んでいた。金は無くても心だけは清らかでいたい、そんな小さな幸せで清兵衛は満足していたのだ。
そんなある日、幼馴染で今は江戸の屋敷に詰めている高級藩士・飯沼と城下で出会い、彼の妹・朋江(宮沢りえ)が嫁ぎ先から出戻っていることを知らされる。後日、その朋江が井口家を訪れる。幼い頃から朋江を知ってる清兵衛は、久し振りに彼女と会い美しく成長した姿に驚いてしまう。
ひょんなことから清兵衛は、朋江の別れた夫(大杉連)と果し合いをすることになってしまう。翌日、河原での果し合いで清兵衛は真剣を抜いた彼に対して、棒切れで立ち向かい軽がると打ち負かしてしまう。
そんなことがあって、たびたび井口家に遊びに来るようになった朋江に二人の娘もすっかりなついた様子。それに、彼女がいるだけで家の中が明るくなるから不思議だ。
そんな折、飯沼から「朋江を後添えにどうか」と話を持ちかけられる。朋江のことを憎からず思っていた(いや、彼女が家にずっと居てくれたら...と思っていた)清兵衛だが、自分の貧しさを理由にその話を断ってしまう。そして、朋江はそれからぷっつりと清兵衛の家に来なくなってしまった。

その頃、清兵衛の運命を大きく動かす出来事が彼を待っていた。

この映画は設定を幕末から現代に置き換えてもなんら問題無い。
清兵衛が示す子への愛情。そしてこの小さな幸せを守るために、理不尽だとは知りながら藩命(社命)に従い、決闘へと出向いていく。その命令を下した藩(会社)の存在そのものが土台もろとも崩れ去っていく可能性を知りながら...。

宮沢りえはほんとに綺麗になったなぁ。「遊園驚夢/華の愛」の時は美しさだけが強調されていたけれど、今回は外見だけではなく、内面の美しさも醸し出されていたような気がします。昔日の竹下景子を見ているような...。
人が人を斬る。今までの殺陣はキレイ事すぎると思っていた。あんなに簡単に刀で人を切れるはずが無いと。こっちが必死なら向こうも必死、もっと泥臭くて汗臭いはずだと思っていた。この映画では決してスマートではない殺陣がとてもいい。斬る方も斬られる方も。

実直な下級武士(サラリーマン)の悲哀をストレートに描いた秀作。
ほんとにオススメの一本です。来春ごろまでどこかで再映されているでしょうから是非大きいスクリーンでご覧下さい。

おしまい。