「ブレッド&ローズ」

見て見ぬ振り


  

なかなか「ゴスフォード・パーク」を観る順番が廻ってこない。特に12月は観たい映画が多かったのと香港から戻ってちょっと体調を崩していて、映画どころではなかったせいもある(お陰で3本も試写会をパスしてしまった)。そうこうしているうちにレイトショーになり、それもこの週の金曜でおしまいになってしまう。ようやく重い腰が上がったって感じだ。レイトまで待つ間に同じガーデンシネマで観たのが今回ご紹介する「ブレッド&ローズ」(偽ジェで紹介するのも大幅に遅くなってしまった)。
正直言って、全然期待していなかった。予告編は何度か目にしていたので、だいたいどんな映画なのかは知っていたけど、それでもそんなに食指がそそられるわけでもなかったんやけど...。

ちょっと、ショックを受けた。
それは、この映画で取り上げられている事柄はアメリカだけで起っていることではなく、日本でもそれも自分の身近な場所でも起こっているのではないか。そして、それをボク自身、見てみぬ振りをしているのではないかと思ったからだ。

主人公のマヤは姉を頼って、メキシコからLAに不法入国してきた。姉のローサの紹介でオフィスビルの清掃員として、姉と一緒に働き出す。しかし、不法移民たちの労働条件は厳しく、この職場では様々な悪条件が待ち構えている。マヤは労働運動の指導者と知り合い、職場の改善に乗り出すのだが...。この映画は、マヤを通じて、労働問題を取り上げてストーリーは進行していく。でも、労働争議そのものはこの映画のサブ・テーマにしか過ぎない。

この映画が本当に伝えたかったことは二つあると思う。
一つ目はマヤとローサ、この二人の強い絆なのではないだろうか。この映画で、一番胸を熱くするのは労働争議に勝利するシーンではなく、反目しあいながらも最後にマヤを載せたバスを追いかけていくローサの姿であり涙だ。
そしてもう一つは、日ごろの生活の中で、目に入らないこと(或いは目をつむっていること)が如何に多いかということだ。姉が妹に注ぐ愛情、親が子にかける無償の愛。それらは、当たり前のこととして受け入れてしまい、その愛情のために払われている犠牲に気付かないで通り過ぎてしまっていることがどれだけ多いか。これは(この映画のストーリーは極端だとしても)驚かされる事実。このことに気付かせてくれただけでも、この映画を観る価値はあったかもしれない。

また、サブ・テーマかもしれないが、今の社会の底辺を支えている(?)労働者の権利や人権がないがしろにされているという問題提議も見逃せない。今の日本でそんなことはもう無いだろう、と思ってしまいがちだけど、そんなことはない。
日本でも不法滞在の外国人や知識が乏しい労働者を食い物にしている経営者や雇用主は少なくない(と思う)。そんな労働者の姿を様々なシーンで目にしているはずなのに、ボクらは見てみぬ振りをしているだけなのかもしれない。少し考えればわかるはずのことなのに!

一筋縄では行かない、いろいろと考えさせられる映画であることは間違いありません。
残念ながらもう上映は終了しているはずです。よろしければビデオかDVDでご覧下さい。まぁ、観て楽しいという映画ではないけどね。
マヤが知り合う労働運動のオルグ役のエイドリアン・ブロディは来春に公開予定の「戦場のピアニスト」(今年のカンヌ映画祭パルム・ドール受賞作)に主演しています。予告編を観た限り、この「ブレッド&ローズ」の演技とは随分違うみたいだけどね。

おしまい。