「なごり雪」

それぞれの想い出の扉を開ける


  

〜汽車を待つ君の横でボクは時計を気にしてる
〜季節はずれの雪が降っている
〜東京で見る雪はこれが最後ねと淋しそうに君はつぶやく

もう28年(1980年)も前の作品だそうだ。ボクはまだ中学に上がったかどうかの頃。
この曲はシングル・カットされたわけでもなく、後日にイルカがカバーするまで陽の当たる曲ではなかった(この曲が入っていた「三階建て詩」というアルバムには「赤ちょうちん」や「22才の別れ」も収録されています)。
今では、若い子はムリでもそこそこ以上の年齢の人なら誰でも知っている歌だ。別れの曲(?)なので、カラオケでがんがん唄われるってことはないと思うけど。

この曲に着想を得た大林宣彦監督が大分県の臼杵を舞台にして撮った作品がこの「なごり雪」(ロケ地・臼杵が先に決まっていて、後で本来津久見が舞台の「なごり雪」を無理失理臼杵に持ってきたという説もありますが)。
正直言って全く期待していなかった。予告編を観てもピンとは来なかったし、自分でもどうしてこの映画の前売りを買ったのか訳がわからなかったほどだ。 三浦友和(年いったなぁ)が主演だし、変なメロドラマに仕立てられていたらこの曲のイメージ壊れるしなぁ...。

冒頭、いきなり伊勢正三が唄う「なごり雪」で始まる。
この映画のために録音し直し直された歌は、ボクが知っている歌い方とは違い、少し甘ったるい歌い方だ。それが妙にボクの心にひっかかる。
テロップが流れ「この曲から28年。50歳になった」と書かれている。
そうか、28年という時の流れはそんなに大きいのか。
この映画を観ようと思う人は、やっぱり「なごり雪」という曲に想い出があったり、思い入れがある人だろう。そして、ボクもその一人だ。
幕を開けた映画は、そんな各人の想い出や思い入れとは関係なく進んでいく。だけど、この映画そんなに悪くないのだ...。

28年前、臼杵で青春時代を過ごす梶村祐作、水田健一郎、雪子がいい。

地元の高校生にも関わらず標準語を口にするのには抵抗を感じるが、大林作品はみんなそうだから仕方ないか。
ボクが過ごした高校時代よりは少し前だけど、28年前の臼杵で青春時代を送る主人公たちとは幾つもの共通項があり、知らず知らずのうちに映画の中の彼らに親近感を覚えていく。

映画は、現在と過去が何度も何度も繰り返し交互に描かれる。
現在において、過去を思い出すことによって、想い出のツボミが花開くことはあっても、過去の謎が解き明かされることはない。
だから、ラストで祐作(三浦友和)が乗った汽車が去った後に水田(ベンガル)がホームで号泣する訳はみんなにはわからない。その理由はこの映画をここまで観た一人一人が解釈すれば良いのではないでしょうか。

雪子を演じる須藤温子がすごくいい。気に入りました。

きっと「なごり雪」という曲を知らない人はこの映画を観ないんだと思う。でも、この映画はそれでいい。
それぞれの人が持っている青春時代の想い出の扉をそっと押し開けてくれる、そんな映画です。
誰にでもお勧めという映画ではありませんが、ボクにとってはいい映画でした。この映画を観終わってから「なごり雪」のメロディをついつい口ずさんで仕方ないけどね...。

次回は久しぶりに観たインド映画「モンスーン・ウェディング」をご紹介します。

おしまい。