「天国の口、終わりの楽園。」

一風変わったロード・ムーヴィー


  

一風変わったロード・ムーヴィー。

メキシコシティに住む二人の悪ガキ、フリオとティノッチ。高校を卒業して、大学に進むまでの長い夏休みを持て余している。そんな二人が親戚の結婚披露パーティで知り合った美しい年上の女性。実は彼女はティノッチの従兄弟の奥さんルイサだった。それでも、彼女がビーチに行ってみたいと言えば「“天国の口”という伝説のビーチがある」と誘うのだ。本人たちもそのビーチが実在しているとは信じていないのに。

そんなやりとりがあったことも忘れていた数日後、ティノッチにルイサから「一緒にビーチへ行きたい」と電話が掛かってくる。二人は慌てて準備を整え、彼女を迎えに。そして、三人は伝説のビーチ目指して出発する。

一見すると、とてもありがちな青春映画だ。二人の少年と一人の大人の女性という組み合わせは面白い。そして三人は旅に出る。目的地は...、わからない。
美しく、教養もありそうな人妻がどうして野獣のような(?)少年たちと旅に出るのか、不思議なようだけど、表面的には彼女なりの理由があった。そして本当の理由は最後にわかる。

もちろん行ったこともない国、メキシコ。
三人がどんなコースを辿り、どこのビーチに向かおうとしているのか。それは全くわからないけれど、車窓に流れる赤茶けて乾燥した広大な彼の国の大地は美しく、圧倒される。この大地に住む人たちもみんな大らかそうだ。

そんな大自然をバックにクルマは走り続ける。
道中のクルマの中で繰り広げられる会話に爆笑を誘われる。そして、その開けっぴろげの内容と行為にはただただ驚かされる。
三人は笑ったり、泣いたり、ぎくしゃくしたり、ケンカをしたりそして仲良くなったり...、とは言え、フリオとティノッチはルイサの掌の上をコロコロと転がされているだけなんだけどね。
そしてメキシコシティを出発してから三度目の朝、三人を乗せたクルマは人気(ひとけ)の無い美しいビーチに辿り着いた!

途中、クルマの故障で立ち往生を余儀なくされた三人が泊まったホテルのプールが素敵だ。もう何年も掃除されていないプールには落ち葉が一面に浮いている。そんなプールで二人の少年はそれこそ「青春」を賭けて泳ぐ。争いに負けたフリオが落ち葉の中に沈んでいく映像は素晴らしい。
手持ちカメラでの撮影が多くよくブレるし、ざらついた画面なんだけど、それがメキシコという国と三人の気持ちにマッチしているようで、なかなかイイのだ。

当たり前のことだけど、青春はその当事者には辛くて苦しくてやりきれないことばかりだ。だけど、通り過ぎてしまった者にとって青春は甘酸っぱくて切なくて美しいものなんだ。そんなことを改めて想い出させてくれる映画です。

二人の少年にとって夢のような5日間はまたたく間に過ぎてゆく。ルイサはこのビーチに残るのだと言う。
夏は過ぎ、三人は別々の方向へ向かって歩き始めるのだ。

いくら素敵で素晴らしい青春映画を観ても、青春小説を読んでも、もうボクには青春時代は蘇っては来ない。ちょっぴり、いや大いに淋しい。

おしまい。