「ダスト」

飽きずに一気に語らせる魅力


  

この日観てきたのは「ダスト」という映画。最初はアメリカ映画かと思っていたのだが、何ヶ国かの共作映画。但し、台詞のほとんどは英語だし、基本的な舞台はニューヨークだ。
なかなか面白い設定で、はじめは「何だかなぁ」って感じだけど、ほんの10数分ほどで映画の世界へ吸い込まれてしまう。

2000年11月、勤労感謝の日(サンクス・ギビング・デー)が近い寒い夜。ニューヨークの場末にある忘れられたような古いアパート。ここの一室がこの遠大な物語りの発端。
この部屋に泥棒に入った黒人の若者エッジ。留守だと思っていたこの部屋に老女アンジェラがいることに気づく。ずらろうとしたエッジに対して、彼女はベッドの中から銃で彼を脅し、100年前の物語を語りはじめた...。

西部のある街にルークとイライジャという気は荒いが銃の腕は確かという兄弟がいた。二人は決して仲のいい兄弟ではなかったが、いつも二人で行動していた。ある日、娼館を訪れた二人、純情な弟イライジャは肌をあわせたフランス人の娼婦リリスに恋をし、結婚する。
そんな二人を残して兄ルークは放浪の旅に出、とうとう海を渡りヨーロッパへ旅立つ。ルークが落ち着いた先はバルカン半島のマケドニア。ここではオスマントルコとマケドニア独立派が戦闘を繰り広げていた。そして独立派の指導者にはトルコ政府から巨額の懸賞金が掛けられていたのだ。ルークは賞金稼ぎが目当ての荒っぽい盗賊団に属していたのだ。そして彼らが狙うのは「教師」というあだ名がついた活動家のリーダーだった。
「教師」が潜む集落は、独立派軍、トルコ正規軍さらに二つの賞金稼ぎの盗賊団が入り乱れて殺戮の限りが尽くされている。そこへ兄ルークを付け狙うかのように現れたのが弟イライジャ。遥かアメリカ西部から突然現れたイライジャの姿に驚くルーク。そして、イライジャの放った弾丸に倒れるルーク。
この二人の兄弟の間には何があったのか。

アンジェラはここまで話した後、急に発作を起こして倒れてしまう。そして、エッジに古い金貨を握らせて「自分の死後はその灰を故郷マケドニアに撒いてくれ」と頼む。
救急車を手配したエッジは彼女がこの部屋にもっと金貨を隠しているはずだと睨む。エッジは借金の清算を迫られていたのは確かだ。しかし、金貨がもっと欲しいからという理由だけで老婆が運び込まれた病院に見舞いへ訪れたわけではないだろう。この兄弟の話しに引き込まれていったのだ。
そして、アンジェらは病院のベッドに場所を変えて兄弟の話しの続きを語り始めるのだ。

イライジャの弾は幸い急所を離れており、ルークは一命を取り留める。行き倒れになっていた彼を救ってくれたのは、近くの村に住むネダという娘。彼女は臨月のお腹を抱えてルークの介抱をしていた。元気を取り戻したルークは、ネダのお腹の子の父親が「教師」であることを知る。
そんなある日、この村にトルコ軍の兵士が攻め込んできた。ネダの父親はルークに金貨の詰まった袋を差し出し、ネダとともに逃げるように頼むが、ルークは金貨だけを奪い、この村から逃走する。
そんなルークを追うのがイライジャ。彼はルークにここまで兄を追ってきた理由告げ、彼を蔑む。しかし、傷ついた兄にとどめの銃弾を打ち込むことが出来ず、ルークの許から立ち去る。

そこまで語ったアンジェラは再び発作を起こして、そのまま息を引き取ってしまうのだ。エッジに物語の最後を語らないうちに...。
このままでは物語は終われない、エッジは老婆の願いを聞き入れて、彼女の骨壷とともにマケドニアへ向かう飛行機に乗り込む。そして偶然隣に乗り合わせた若い女性にエッジはアンジェラから聞いた物語を最初から語り始める。

ルークは弟が去った後、彼にはやり残したことがあったのだと気づく。彼はネダを救うために村へ引き返すのだ。そして、やがて、ルークの物語は幕を閉じる。

ストーリーそのものはとても面白い。引き込まれて、一気に観てしまった。
だけど、妙なアンバランスさが残る。この兄弟の物語全体を覆うノスタルジックで一風変わったロマンチックなイメージと、乾いた銃声、殺戮、血糊べったりの死体にたかる蝿、この対照があまりにもかけ離れていてマッチしているとは思えない。
泥棒が老婆から100年前の物語を聞かされるという設定は、なかなか面白いが、その面白さが充分生かされているのかも疑問だ。もう少しスマートにまとめられなかったのだろうか、特にエッジと悪徳警官のエピソードはあきらかに蛇足。
でも、飽きずに一気に語らせる魅力があるストーリーであることも確かだ。リリス(アンヌ・ブロシェ)とネダ(ニコリーナ・クジャカ)の二人は何とも言えない不思議な魅力を持っている。特にニコリーナ・クジャカはブレーク寸前のペネロペ・クルスを彷彿させるものがあります。イライジャを演じたジョセフ・ファインズは「キリング・ミー・ソフトリー」で猟奇的な登山家を演じていた人ですね。
もう、一練り、二練りして洗練されればいい作品になったのになぁ。
おすすめの作品ですが、大阪と神戸では上映が終了してしまいました、京都の朝日シネマでもう少し上映しているようです。

今回は長いね。おしまい。