「アナムのスカーフ」

母の愛は強く、深い


  

福岡と言えばやっぱりラーメンか。
今回の訪問では映画のスケジュールがびっしりな上に台風の接近もあって雨が多く、あまり外には出かけられなかった。いつもなら、朝早く起きてホテルの周辺を散歩したり、あてもなくぶらぶらするのだけれどね。福岡なら大濠公園の牡丹園に立派な椿園が併設されているらしいので、そこを覗くか、香椎神社へ一度出掛けるか、どちらかを考えていたんだけど、目覚めると雨。外に出ると凄い湿度。きっぱりあきらめて、もう一度ベッドの中へ。こんなことも珍しい。
それでも、ラーメンも食べたし、福岡の大学で学んだ知り合いに教えてもらったお好み焼きも食べた。福岡でお好みと言うのもヘンな気がするけど、博多駅前の交通ビルにあるこの「ふきや」というお好み屋、なかなか流行っていてお昼前なのにすでに満席だ。他の店にはお客が入っていないのに! 昼前から生ビールとも思ったけど我慢、我慢。ボリュームたっぷりで旨かった。広島タイプよりこっちの方がいいね。食事と言うよりもスナック。ほんとはビールのあてによさそうだ(未練たっぷり)。

福岡アジア映画祭で最後に観たのは「アナムのスカーフ」というドイツ映画。
アジア映画祭なのにドイツの作品とはヘンな気もするけど、ドイツにはトルコからの移民が多く、この映画の監督も主人公一家もトルコから移民してきた人なのだそうだ。
硬派の社会派ドラマだ。
主人公はハンブルグでビルの清掃員として働く主婦アンナ。旦那と20になる息子、そして小学生の娘と生活している。旦那が自分と同じ職場の女性と浮気しているのを知り、三行半を叩きつけるが、アンナが最も心配しているのは息子のデディ。最近あんまり家に寄り付かない。おかしいとは思っていたが、旦那と娘からデディはジャンキー(麻薬中毒者)だと知らされる。彼が入院したと聞かされ、病院へ駆けつけるが、病室には麻薬密売人が来ていてデディを病室から追い出してしまうのだ。
ここから、アナムの闘いが始まる。職場の仲間の手助けや、同じく麻薬中毒の息子のガールフレンド・マンディとの出会いなどを経て、彼女は息子を麻薬禍から救い出そうと奔走する。この過程で、アナムは自分自身とも向き合うことを知るのだ。
結婚して子供を育てて、妻として母親としての役割を演じてきた自分に何も疑問を持っていなかった。しかし、夫には裏切られ、息子も自分の手の届かないところに行ってしまおうとしている。そんな自分にどんな価値があるのか。古いイスラムの慣習から抜け出して、自分自身の人生を少しは楽しんでもいいのじゃないかと思い始めるのだ。

この映画のテーマは二つ。それは母親の強さと愛情の深さ。そして、旧世界から新世界へ飛び出すはじめの一歩。一見して相反するテーマのようだけど、この二つは非常に巧く噛み合っていて、見ている者の胸を熱くする。スカーフを脱ぎ捨てるアナムに拍手を送りたくなりました。
マンディを演じている若い女優さんがなかなかいい。彼女のあっけない結末はちょっとショックだけどね。
「ギガンテック」で見たハンブルグの街とはまた違うこの街の表情を見ることができます。

全部で6作品を観た福岡アジア映画祭。どれも粒ぞろいの秀作ばかりでした。
もう少しこの映画祭に参加していたい、そんな後ろ髪引かれる思いで福岡を後にしました。
中身が濃い割にはこじんまりとして親近感があり手作りの映画祭でした。主催者の方、スタッフの皆さんありがとうございました、そしてお疲れ様でした。
またチャンスがあればお邪魔させていただきます。

おしまい。