「悪い男」

憎悪が愛に昇華する


  

この福岡アジア映画祭の目玉の一つがこれからご紹介する「悪い男」。
この作品も「公共の敵」と同じく今年の春先に公開され、大ヒットした映画だ。ボクも3月にソウルで観るチャンスに恵まれている。そして、今まで観た韓国映画の中でも特にオススメの一本。
こんなに早く日本語字幕付きで観ることが出来るなんてウレシイ。

主人公にはセリフがたった一カ所しかない。その分、厳しい演技が求められているが、ハングルがさっぱりのこちらにとってはとってもわかりやすい映画なのだ。顔の表情や視線の動きは万国共通なんですね。
実は、この映画を観るのがちょっと怖かった。と言うのも、二度目を観てその映画の印象がぐっと下がってしまうことも少なくないからだ。最初はストーリー展開にグイグイ引っ張られて見入っているのだが、物語りを承知してもう一度観るとアラばかりが目立ってしまうことがある。それに今回は字幕付きということもあって、ボクが勝手にいいように解釈していたシーンが、しょうむない内容だったりしたらがっくりするもんなぁ...。
でも、さすが「悪い男」。二度目を観ても熱く感動した(もっとも、初回ほどではなかったけど、それは仕方ない)。
上映が終わり、劇場内にさざ波のように広がる友人にささやく感想のおしゃべりが今回上映されたどの作品よりも大きく多かった、ロビーで交わされる言葉からも興奮が伝わってくる。そうだよ、ボクもそうだった。この映画は観終わってから「こんな凄い映画を観た」と誰かに喋りたくてしかたない、そんな映画なのだ。

二度目を観て、ボクはこの映画に衝撃を受けたのではなく、感動していたのだということがわかった。もちろん、公序良俗に刃向かうかのようなこのストーリーに衝撃を受けない人はいないと思う。だけど、この映画は嫌悪やさげすみといった普通の恋愛とはまったくかけ離れた部分からスタートした二人の関係が真の愛(?)にまで「昇華」していく姿を観客に提示している。この二人の姿にボクは胸を熱くして感動してしまうのだ。
チョジェヒョンとソウォンの演技には眼を見張らさせられる。
それほど凄い。それほど感動する。

さすがに字幕付き、よくわかりました。
チョジェヒョンと二人の手下の関係なんかも。でも、それはほとんど、この映画の理解には関係なかった。初回の方が言葉がわからない分、食い入るように画面に集中していた。いい映画、面白い映画というものは、そこで話されている言語には関係なく観ていてわかるものなんだ。

今年観た映画の中でも確実に三本の指に入る傑作です。福岡まで足を運んだかいがありました。次回はいつ日本で上映されるか不明ですが、上映される際には是非ご覧ください。
午前中の上映では空席の方が多かった映画祭の会場でしたが、さすがにこの映画ではほぼ満席でした。皆さんお目が高い! 残念ながらキムギドク監督は来られていませんでした。お話しをお伺いしたかったんだけどなぁ。
それにしてもこの福岡アジア映画祭。韓国映画から「悪い男「公共の敵」を選んで上映する。その選択眼には恐れ入りました! (ちなみに、同映画祭のグランプリは「悪い男」だったそうです)

おしまい。