「バーバー」

今の生活に倦む男


  

コーエン兄弟の新作は「バーバー」。予告編もよく流れていたし、前作の「オー、ブラザー!」も面白かったので、期待は大きい。
前作とは打って代わって、シリアスなミステリータッチの作品です。

1940年後半、カリフォルニア北部のの田舎町サンタバーバラが舞台だ。
激しい恋を経たわけでもなく、なんとなく今の女房と結婚して、なんとなく女房の父親が散髪屋だから散髪屋になった男エド・クレイン(ビリー・ボブ・ソーントン)が主人公だ。今では、散髪屋は義理の弟が経営している。
この男、四六時中紙巻きタバコを吸っている。ほんといつもだ。今なら、散髪中に店の親父がくわえタバコなら訴訟ものだけどね。エドを観ていてボクはサンダーバードに出てくる人形を思い出していた。あっちは人形、こちらは生身に人間なのに、顔の表情なんかがそっくりやねんなぁ。

エドは今の生活が嫌ではない、郊外の住宅地には一戸建ての家があり、経済的に裕福では無いようだけど充分満ち足りた生活だ。ただ、子供はいない。でも、何かこの生活に倦んでいる。夫婦の倦怠期と言うよりも、今まで何もかもなんとなく選んできた今の自分の生活に飽き飽きしている。一度でいいから自分が積極的に判断したことを始めてみたい。でも、その何かを積極的に探しているわけでもない。

そんなところに、一人のハゲでデブ、しかもホモのオヤジが客でやってくる。
このオヤジが散発をしながら聞かせるでもなく話した内容は、エドの心の琴線をかき鳴らした。
「今からはドライクリーニングの時代だ、水を使わずに化学薬品で洗う未来の洗濯方法だ。この街でフランチャイズのオーナーを探していたが、どうもいいパートナーに恵まれない。あてにしていた男にも断られてしまった。資金は10,000ドルなんだけどな」
エドはこの話しに乗ってみることにする。ただし、今、10,000ドルはない。でも、彼には一週間後にはこのカネを用意できる目算があったのだ。

画面はモノクロ。
この主体性の無い男のスタンスは最後まで変わらない。
ボクにはこの映画の「面白さ」が最後までわからなかった。設定は確かに面白いんだけどね。ちょっと練り方が拙かったのかもしれません。そうじゃ無くて、この映画が持つシニカルでブラックなユーモアにボクがついていけなかっただけかもしれません。

もうしばらく梅田ガーデンシネマで上映中です。お時間があればどうぞ。でも、ムリしてまで観に行く価値があるとは思いませんけどね。

おしまい。