「少年と砂漠のカフェ」

ほんとにイラン映画は...


  

特にこれと言ってドラマのないドラマだ。でも、人生はそれぞれ生きている人の分だけドラマがあるのだろうな、そんなことを教えてくれる映画だ。人生は一見淡々としたものに見えるが、淡々とした日常に至るまでに数え切れないほど無数のドラマが重なり合っているんだ。
舞台はアフガニスタンとの国境に近い街道沿いのカフェ。カフェと言っても喫茶店ではなく、町外れにポツンとある小さなドライブインのようなものだ。このカフェを経営する老夫婦の下で働いている少年・キャインの日常をスケッチしている。彼は戦火を逃れてアフガニスタンからイランへ不法入国してきたのだ。
このカフェには様々な人々がやって来る。密輸商人、トラックの運転手、近くの猟師、アフガンからの不法入国者を取り締まる刑事などなど...。
カフェの周囲は1,000mは優に超える赤茶けた荒々しい岩で出来た山脈と荒涼たる砂漠が広がる。砂漠と言うよりも、何もないほんとに何もない岩だらけの乾燥した原野だ。

キャインは何かあるといつも走っている。カフェに刑事がやって来るとそれとなく荒野へ走り出す。クルマのエンジンや水を汲み上げるポンプが故障すると近くの集落まで修理工を呼びに走る。猟師と狩りに行くと、猟師が撃ち落とした獲物を回収しに走る。狩りの行き帰りは猟師が運転する単車に2人乗りや3人乗りはへっちゃらだ、時には4人乗りも。
淡々と描かれている割には、多くのエピソードが過不足無くしっかり紹介されている。
ある日、キャインは国境近くまで出かけていき、今からアフガンに密入国(?)する青年に「姉にこのカネを渡してほしい」と現金を預ける(キャインの一家は父親はタリバンと戦う兵士になり、母親は戦火で死亡、姉と祖母がアフガンに残っているのだ)。暫くして国境の渓谷に数発の銃声が響き渡る。さっきまでキャインがいた場所に転がり落ちてきた白い包みは青年が背負っていたものだ。
また、ある日、街道を国境に向けてイラン軍のトラックが大砲を牽引して何台も通って行く。一見平和そうに見えるこのカフェにもアフガンの影響が深く影を落としているのだ。もちろん、キャインの存在そのものがアフガン内戦の影響なんだけど。

何も劇的なことが起こらなくても、セリフが少なくても、説明不足でも何かが伝わって来る映画ってあるんだなぁ。それはテーマ設定なのか、監督の手腕によるものなのか...。イラン映画はほんと目が離せません。

お人好しの刑事が乗ってくるクルマは、懐かしのBMW2002。最近めっきり見なくなったと思ってたらイランにあったのか。この往年の名車もすっかりボロクルマ扱いで少し悲しかったけど嬉しかった。免許を取ったらこの02を買おうと誓っていたんやけどな。
会場は梅田ガーデンシネマ。ボクは先週の公開初日の初回を観たのですが、70名ほどの入りと盛況でした。6/28まで上映しています。

おしまい。