「KT」

“食い足らなさ”を感じてしまう


  

今週は不覚にも体調を崩してしまい、少し苦しい一週間だった(もう、すっかり元気!)。急に真夏日が続いたからかな。上着もネクタイも勘弁して貰いたですね。

さて、今回観てきたのは「顔」で好評を得た坂本順次監督の新作「KT」。テアトル梅田ではようやく「アメリ」の上映が終わり(モーニング&レイトでは引き続き上映しています)、両スクリーンともこの「KT」を上映する力の入りようです。
「KT」とは、現大韓民国大統領・金大中のイニシャルであり、Kill Target の頭文字でもあるのですね。
今の若い人は知らないと思うけど1973年に起こった金大中拉致事件を題材にしています。この事件は、現代の瀋陽領事館事件とは比較にならないほど話題になり、日本の主権侵害に対する外交力の弱さがさらけ出された事件だった。詳しく知りたい人は原作の『拉致−知られざる金大中事件』(新潮文庫刊、中薗英助)をご一読下さい。

この事件を金大中からでもKCIAからでもなく、この事件に唯一関与したとされる自衛隊の情報将校・富田(佐藤浩市)の視点から描かれている。
この映画の最大の欠点は背景説明の弱さにあると思う。これらの説明が弱いから説得力が無い。だから、当時の韓国政権(とKCIA)にとって金大中がどれだけの脅威だったのか、どうして金大中が韓国を出て米国と日本を往復する亡命生活を送っているのか、全く分からない(特に、この事件をこの映画で始めて知る人にとってはさっぱりでしょうね)。もう一つは、佐藤浩市がイジョンミをどうしてマークしていたのかも、まったく不明だ(北朝鮮関係か?)。

娯楽映画として観た場合はそこそこ楽しめるかもしれない。
この映画は、金大中拉致事件を描くように見せかけて、実は自衛官富田の心の葛藤を描いているのかもしれない。日陰の存在としての自衛官、そんな自分に決して満足せず、疑問を投げかけている。だが、自衛官が災害時以外に脚光を浴びてしまう時の日本って...。
富田の腹心の部下に「鬼が来た!」の香川照之。上司に柄本明。両方とも好演しています。三流夕刊紙の記者に原田芳雄、金大中のボディガードに筒井道隆。
韓国側では、特長のある顔が印象的なキムガプスがKCIAのリーダー。(シムウナ様の)「インタビュー」にも出ていたイジョンミが薄幸の女性を演じています、このイジョンミなかなかいよ!

よく、海外制作のテレビ番組で日本が紹介されていて、その紹介の仕方が表面をさらっとなでただけで、こっちは妙に期待しているのにそれが裏切られてがっかりしてしまうことがありますよね。「やっぱり、外人の日本の理解はこんなもんなんや!」って。
それと同じ思いをこの「KT」や「ソウル」を観て韓国の人たちは感じているのではないでしょうか。そんな「食い足らなさ」を感じてしまう作品ではあります(両作とも、ソウルでは興行的に大失敗)。
折角、韓国のスタッフと役者さんを起用しているんだから、もっと練り込んだ作品を期待してしまうんですけどね...。

もうしばらくテアトルで上映中です。

おしまい。