「突入せよ!「あさま山荘」事件」

ノンフィクションではなくフィクション


  

骨太の日本映画。
しかし、この映画を観て怒り出す長野県警関係者および長野県人がいないか心配だ。

役所広司が演じる警視庁幹部から見た「あさま山荘事件」がドラマチックに展開される。ただ、この映画の力点は「あさま山荘事件」そのものに置かれているのではなく、この事件が解決するまでの間に起こっていた、警察内部での権力の綱引きに置かれている。
だから、いったいどのような経緯で赤軍派のメンバーがライフルを持ってあさま山荘に籠城したのかを含めて、事件やその時代の背景は一切描かれていない。この点にこの映画の弱さがある。もっとも、それらを全部描ききると10時間ほどの映画になっちゃうけどね。
制作者の意図は最初から、「赤軍派vs警察」ではなく、「佐々vs警察機構」に焦点を絞っていたのだろう。そう割り切ると、なかなか面白い映画だと思う。
もっとも、それはこの事件や赤軍派についておぼろげながらも知識がある40代以上の人の話で、そういう前提条件がない若い人にとっては、何がなんだか分からない映画と写るかもしれない。

脇を固める俳優陣がなかなか豪華。
藤田まことはどうかと思うけれど、宇崎竜堂、伊武雅刀なども良かったし、途中で殉職してしまう機動隊の隊長も良かったですね。それから、長野県警の現場の隊長だったかな、玄関先に果物籠を置く人もいいね。椎名桔平演じるクレーン会社の運転手の制服が笑いを誘います。こういう映画なので、女優さんはほとんど出てこないのは残念だけど、男の世界が上手く描けているのではないでしょうか(氷点下15度の世界だから「汗臭さ」はないけどね)。
長野県警で最初はつっかかるジャンバー姿のお兄さんが、どんどん元気が無くなるのはどうもなぁ。最近、警察の不祥事をよく耳にするけど、これだけ内部ががたついていて、大きな事件でも一枚岩の体制で取り組めない組織はダメですね。きっと、30年前と現在でも何にも変わっていないんやろなぁ。

佐々さんと、彼のシンパだけが格好良くて、あとは全然あかんという構図は、ちょっと一方的に美化しすぎのきらいもあるけれど、ノンフィクションではなくフィクションだ、と最初に断り書きが入れてあるので許容範囲でしょう。
絶対のオススメではありませんが、観て損のない映画だと思います。
会場は梅田ブルク7。この日は最上階にあるスクリーン。火曜日の6:30からの回で80名ほどの動員は、それなりって感じですね。

次回は、キムギヨン特集の最終回「肉体の約束」をご紹介します。

おしまい。