「ライバン」

人生には三つのチャンスがある


  

韓国という国は「奥が深い」。
もちろん、ほんの数回行っただけで全てを知ったわけではないけれど、こうして映画を観たり、行ったりしていると、韓国に触れるたびにまた新しい発見があるものだ(当然だけどね)。

今回ご紹介するのは「ライバン」という映画。ちよっと古めの映画ですね(最初の方で、ハンナクのクルマに乗る若者の髪型から、もう少し前の映画かと思ったら、2001年制作。びっくり!)。
これが、ぜんぜん期待してなかっただけに、その期待を裏切る面白さ、快作です。韓国映画の底力を知ることが出来ました。

タクシーの運転手をしている30代半ばの三人は同じ会社に勤める仲良しだ。
冒頭は、彼らの日常を切り取った、なんか日記を読んでいるような感じ。
彼らが仕事を終え、いつも入り浸っている飲み屋でだべっているシーンから始まり、やがて三人の輪郭が見えてくる。

一人は、出稼ぎに来ている中国人の少女に入れあげているヘゴン、彼は弱いくせに自分の性豪ぶりを自慢したくて仕方が無い。ほんまに憎めないキャラクターの持ち主。
片時もレイバン(このレイバンの韓国式発音が、この映画のタイトルにもなっている「ライバン」なのです)のサングラスを離さない男がハンナク。自分のおじさんがベトナム戦争で活躍したことが自慢だ。
そして最後に唯一の大学卒で、家族持ち。ちょっと気の弱い男がジュノン。奥さんの尻に敷かれている。自分の母親と兄貴とも同居している。

この三人に共通しているのは、うだつの上がらない今の生活にくたびれはて、いつも金に苦労していることだ。
ヘゴンがあこがれる中国娘は借金のために70歳のおじいさんと無理やり結婚させられてしまう。ハンナクは自分が16歳のときに生まれた娘に、アメリカへ留学に行く費用が出せないのなら養子に行くと宣言されてしまう。ジュノンは兄貴が三度目の結婚をするのでアパート代を工面するように泣きつかれるのだ。 そんな三人三様の悩みを抱えながらも、明るく仕事に精を出す三人(もっとも、この三人がまじめに仕事をしているシーンは皆無なんだけど)。
仕事を終えて、三人でテーブルを囲んでビールを飲むときだけが楽しみだ。しかし、この飲み屋、主人がいなくても勝手にこの三人が入り込んで、ビールを注ぎ、ちびちびやっているんだから不思議なお店だね。

そこへ事件が起こる。タクシー会社の常務が「蒸発」してしまったのだ。この常務にジュノンは大金を貸していたから大騒ぎになる。しかし、彼の行方は解らないし、会社も常務個人の借金には責任を持たないと言う。
思いつめたジュノンは二人にある相談を持ちかけるのだ。
その界隈で、大金持ちだけどケチとして有名なおばあさんの家には、現金で数億ウォンが隠されているらしい、このおばあさんの留守を狙って現金を頂戴しようという作戦だ。
この作戦に、会社で整備工として働く純朴な青年の恋というサイドストーリーも絡まって、物語は進んでいく。果たして、三人は現金を手にすることができるのか?

湿っぽくはなく、全体が明るいギャグ調。あまり感情を表現しない日本人が観ていても、思わず吹き出してしまったり、声を上げて笑うシーンも多い。この三人の思いが切実なだけに興味は尽きない。テンポが良くて、こんなに肩のこらない楽しい作品も珍しいですね。チャンスがあればぜひご覧ください(そうそうチャンスは無いと思うけど)。
いわゆるスターが出演している訳ではなく、ストーリーでここまで見せてくれるのは立派です。

次回も「大阪韓国映画祭2002」の上映作品「インディアンサマー」をご紹介する予定です。

おしまい。