「イルマーレ」

2年の時を越えて...。


  

映像が美しい。そしてストーリーは美しく、切ない。こんな切ないストーリーをボクは知らない。

設定や骨子はいかにも韓国の人たちが好きそうなものではある。以前観た「手紙」という映画に通じるものがある。でも「手紙」とは比較にならないほど洗練されている、ストーリーも映像も音楽も、そして俳優達も。
ヒロインのウンジュを演じるチョン・ジヒョンは、中華圏のアイドル(?)女優スー・チーにどことなく似ているかわいいお嬢さん。相方の男優はさんは、シム・ウナさまの「インタビュー」にも出ていたイ・ジョンジェだ。

舞台になる海辺に建つ家がいい。「海辺」ではなくほとんど「海の中」に建っているんだけど。

2年の時を隔てた二人が出会う。でも、決してSFタッチではなく、極めてノーマルな語り口で物語は綴られていく。
二人を結び付けているのは、海辺に建つ一軒の家とその家の前にあるポスト。

この海辺の家から引っ越すことになったウンジュ(チョン・ジヒョン)は、自分宛に届く郵便物の転送を依頼する手紙をポストに残す。
一方、卒業を目前にし、突然、大学を休学したソンヒョン(イ・ジョンジェ)は、新築されたばかりの海辺に家に住むことになった。そして、この家を気に入ったソンヒョンは「イルマーレ」と名付ける。
家の前にあるポストを覗いた彼は、ポストのなかに奇妙な手紙を見つける。その手紙はウンジュが書き残した手紙だ。
この未来からの手紙に戸惑うソンヒョン。しかし、この手紙には実際にこの家に住んだことがないと分からない様なことも書いてある。
ソンヒョンは、この手紙に返事を書き、家の前のポストに入れてみる。やがて、ウンジュからの返事が届く。「今度、大雪になりますよ。風邪を引かないように」と。ウンジュの予告どおり大雪になり、ソンヒョンは風邪を引いてしまう。
そんなやりとりがあり、二人はこのポストが2年の時を隔てて文通ができるポストであることを確信する。

時を超えて人を好きになるって、どんなことなのだろう。
ソンヒョンはウンジュの2年前の世界に生きている。
「2年前なら、毎日アルバイトの帰り、地下鉄の●●駅で最終電車を待っていた。ホームの一番南側のベンチが毎晩の指定席だったわ」とウンジュから聞かされる。
ソンヒョンは当然、2年前のウンジュに会いに行く。会いに行くと言っても、今ソンヒョンの目の前にいるウンジュは何も知らないから、声も掛けられず、ただみつめるだけだ。彼女がベンチに忘れていったMD(カセット?)プレーヤーを手にしたまま。
ウンジュを載せた地下鉄のドアが閉まり走り去っていく。
その時のソンヒョンの気持ちを思うと切なくてね。
目の前にいるのに、ここにいるウンジュは自分が知っているウンジュではない。じっと自分を見つめている男に彼女は不審そうな視線を時折向けるだけだ。

「この日に会いましょう。忘れないでね。私にとっては、たった一週間後だけれど、あなたにとっては、2年も先のことだから」

この二人の姿を黙ってみつめる黒い観賞魚と「人間のように眠る」室内犬のコーラが効果的に使われています。
ちょっと甘い部分がある(特にラストには賛否が別れると思いますが)のも確かだけど、深くボクの印象に残る映画でした。もうしばらく梅田のシネリーブルで公開中です。皆さんに是非ご覧頂きたい作品です。

おしまい。