「がんばっていきまっしょい」

この夢が永遠に続いてくれたらいいのに!


  

いい夢を見た。

「お前らの年から共通一次が始まるから厳しくなるんぞ」と数学の先生にはっぱを掛けられているから、ボクと同じ世代だ。
ボクは小学生の時にサッカーを始めて、大学を出るまでずっとサッカーをしてきた。だから、上の学校に上がるときに、どのクラブに入るか選ぶ楽しみもなかったけど、悩んだこともなかった。
主人公の悦子は、松山にある名門進学高校への入学式を明日に控えているにもかかわらず、虚脱感で一杯だ。受験は終わった、志望校への合格も果たした。でも、これからの目標を失ってしまったからだ。かと言って3年後の大学受験を新たな目標に勉強だけをする気もない。
半日だけの「家出」をして、海辺で見かけたのが。海面を滑るように走り抜けていく5人乗りの競技用ボート。
この入学式の前日から、2年生秋の県大会までの1年半、彼女の高校生活はボートと共に駆け抜けていく。

ボートというスポーツを扱ったお話しなんだけど、汗や涙が一杯の「スポ根」ものではないのです。
想い出って、つらかったり苦しかったことは都合良く忘れてしまっていて、楽しかったことしか覚えていないモノ。ボクだって勝った試合のことや、合宿の夜の出来事なんかは鮮明に記憶に残っているけど、苦しかった練習の事やコーチや監督から頂いた小言なんかは、もうあんまり覚えていない。
この映画も、ちょっとした趣向で、通り過ぎていった過去を思い返す作りになっているので、美しいシーンや、楽しいシーンで構成されているのだ。合宿の食事を作ったり、夜はみんなで花火をしたり。練習も出てくるが、それはシーンとしてあるだけだ。
でも、画面からは彼女たちが「見えないところ」で猛練習に取り組んだんだろうなとわかる。今まで、自分たちでは持ち上げて運べなかった艇を運べるようになった。冬の間だの「陸トレ」の成果だ。
主人公達が、これでもかこれでもかって汗や涙を流しながら練習するというシーンが無くても、あっさりと言葉や少ないカットで努力を臭わせるだけで観客にはちゃんと伝わるのです(電車の中で流す悦子の涙、神社の階段で見せるため息もありましたが...)。

また、悦子が主人公なのは間違いないのだけど、彼女の独白はほとんど無く、全てはセリフや表情から読みとるしか、ボクらが彼女の気持ちを想像するしか方法はない。それほど、演出が悦子を突き放してクールに捉えているのだ。このべたべたしていない演出がいいのです。
最後の県大会。デビュー戦だった新人戦とは見違えるほど水を切って湖面を滑って行くボート。5人の気持ちもぴたっと合っている。こいつらほんまに練習してきたんやな。
コックスは声をからして絶叫し、一番運動神経がなさそうな太めの女の子はマメをつぶして、血だらけになりながらもオールを漕ぐ。
やる気が全然なかったコーチも最後には熱くなっている。

もう少し、夢の続きを観させてよ。

 

主演は「元祖(?)」なっちゃんの田中麗奈。その他のボート部員たちも、オーディションで選ばれたという。
この映画も、豊中平和映画祭で拝見しました。映画祭のスタッフのみなさん「お疲れさま」でした。来年も期待しています。

おしまい。