「ベンゴ」

心が揺さぶられる


  

心の底から揺さぶられるような映画を観た。
何故揺さぶられるのか、それはこの映画のテーマがフラメンコだからだ。

映画は(たぶん)葬儀のシーンから始まる。
湖に浮かぶ小島の中腹に斎場がある。この斎場に亡くなった故人と縁があった人たちが集まってくる。そこで奏でられるのはフラメンコ。激しく、情熱的だが、どこか淋しく、もの悲しい調べだ。ギターとバイオリン、木製の笛、そしてみんなの手拍子だ。幾つかのユニットがバラバラに演奏しているようで、その実、上手く繋がっており、やがて輪唱のような状態になる。
故人の死を悲しんでいるのかどうかはわからなくなるが、この調べは観る者、聴くものの心を打つ。

やがて、情景がおぼろげながら理解できてくる。
だが、もはやこの映画にはストーリーはあまり重要な位置を占めていない。
村で開くパーティー、レストランでのディナーの席などに、プロのフラメンコ奏者を呼び、みんなで楽しむ。興がのれば、手拍子を叩き、そして身体が勝手に動く。

ボクたちはフラメンコと聞くと、派手な衣装を付けた踊り子達が華麗なステップで所狭しと踊るものだと思いがちだが、ここでは演奏と唄い手が主役だ。その伸びのある、そして何かに取り付かれたような唄い手の表情はボクの心をつかんで離さない。
フラメンコはジプシーたちの歴史・心・魂など全てを内包したものなのだ。 ただ残念なのが、歌詞にストーリーが無いところか。
この映画を観ながら、春に観た韓国の作品「春香伝」を想い出していた、この映画は朝鮮半島に永く伝わる「パンソリ」という伝統芸能を扱っているのだが、やはりパンソリそのものが半島に暮らす人たちの歴史や心を表した芸能。この調べに乗って語られる物語にボクは心酔したのだが、フラメンコには心酔できるまでの物語性がない(ようだ)。
でも、それは「アラを探せば」というレベルでの話で、映画の中でフラメンコの素晴らしさを十二分に堪能することができます。
主人公を演じているのがスペインを代表するフラメンコ奏者らしいのですが、映画の中では敢えて彼の演奏やステップは披露されない。

トラックの荷台などで、突如として披露される女性達の情熱的なダンスにも心を熱くさせられました。

もう一つだけ注文を付ければ、この映画のもう一つの主題は復讐とか家族愛だと思うのですが、きっとそれジプシーたちやフラメンコの今までのテーマであったのでしょうが、映画としては「男女愛」を前面に出したストーリーにした方が、もっと素直にかつ深く印象に残る作品になったと思います。そうしないと、あまりにもストーリーの重要性がない映画だよ、これは。

会場は新梅田シティのシネリーブル。そこそこの入りでした。

さぁ、スペインのアンダルシアへ行きたくなりますよ。

おしまい。