「シーズンチケット」

憧れのスタジアム


  

初めてスタジアムにサッカーを見に行ったのは、まだ6歳か7歳のころだった。
父親と一緒に、ゴール裏の立ち見席だった。
寒くて震えていると、オヤジが厚手のコートを脱いで、ボクに着せてくれた。
重たかったけど、分厚くて、頑丈で、雨なんか通さないんだ。
凄く、暖かかった。
ハーフタイムになると、オヤジが紅茶を買ってきてくれた。
カップに熱々にたっぷりのミルク。
そして角砂糖二つ。
美味しかった。もう、最高の紅茶だった。
試合が終わると、最後までスタンドに残って、それから競技場を出たんだ。
5時にはもう暗くなるような季節で、バス乗り場まで歩いていくとツグミかな、鳥が鳴いていた。
暖かくて、なんとも言えないボクの最高の想い出だよ。

イギリスに住む少年達にとっては、サッカーの試合が行われるスタジアムは「聖地」なのかもしれない。
この映画は、ニューカッスル・ユナイテッドのピッチ、そこにあるペナルティスポットの芝生を引き剥がして盗むところから始まる。

自分が応援する自分の街のチームのシーズンチケットを購入して、席取りにあくせくすることなく、自分の席でたっぷりミルクが入った紅茶を飲むことはあこがれであり、ステイタスなんだ。
主人公の二人組は、両親に見放されて、祖父と二人で住むおっとりとした少年と、アル中で暴力を振るう父親から逃れて、母親と二人の姉(但し、そのうち一人は家出中)と隠れて暮らす、すばしっこい少年だ。
この二人は17歳くらいで、幼なじみで、学校には行かず、街でぶらぶら日々を過ごしている。

学歴はない、もちろん仕事もない。社会の底辺予備軍のこの二人組は、大好きなニューカッスル・ユナイテッドのシーズンチケットを手にすることで、社会から存在を認めてもらおうと決意する。
これは、社会からのステイタスを得ようという、大それたものではなく、ダラダラ過ごし目標のない毎日をメリハリのある生活に変えようとしたのかも知れない。
シーズンチケットを入手しようと決心したその日から、二人の涙ぐましい合法・非合法を問わないアルバイト(小銭稼ぎ)がスタートする。
果たして、二人はシーズンチケットを手にすることができるのか?

割とノー天気なお話で、観終わってスカっとするものではありませんが、チケット云々よりも、今の英国が抱える問題の一端を見たような気がしました。
冒頭のミルクティのエピソード。フットボールのチケットをエサに出掛けていた学校の教室ですばしっこい方の少年が語るんだけど、実はこの話は、おっとりとした少年の経験談であったのは、ちと悲しかったですね。

この「シーズンチケット」の上映は終了しました。
ボクが観に行ったのは水曜のレディスデーでしたが、20名ほどの淋しい入り。会場はアメリカ村のパラダイスシネマ。

ところで、どうも我がサンフレッチェの調子が良くない。
W杯の予選に外国人を取られ、ワールドユースに3人の選手を派遣しているとはいえ、中断後はさほど強くないチーム相手に連敗。とうとう13位まで順位を下げてる。
もうちょっとガンバってよ!

おしまい。