「リメンバー・ミー」

上品なテイストを醸し出すラヴ・ストーリー


  

この秋は相次いで韓国映画が公開される。
「イルマーレ」の上映は終わったけれど、これから「反則王」「魚と寝る女」「リベラ・メ」「純愛譜」「インタビュー」「ヤンガリ」そして今回の「リメンバー・ミー」などなど。「シュリ」をきっかけにゾクゾクと日本のスクリーンにやって来てくれる。次はチョン・ドヨンの映画が公開されないかな。
11月に東京である国際映画祭(フィルメックス)では、ソウルでこの9月に公開されたばかりの「武士・ムサ」(チャン・ツィイー出演)が早くも上映される。ちゃんとチケットを入手済み。ほんとに楽しみです。

「リメンバー・ミー」は11月下旬に心斎橋・パラダイスシネマで公開。
東京ではこの日(10/20・土)が初日。会場は新宿・歌舞伎町のシネマスクェアとうきゅう(先月「反則王」をタッチの差で見逃した劇場)。12:00からの初回上映後に、主演女優のキム・ハヌルとキム・ジョングォン監督の舞台挨拶があります。たまたま東京へ出張で来ていたので、映画と舞台挨拶を観ることができました。
舞台挨拶があるのに会場には空席もある少し淋しい状況で映画はスタート。でも舞台挨拶の時には立ち見も出ていました(良かった)。キム・ハヌルはスクリーンでみるよりもずっと、ずっと美しかった。

1979年、ソウル。新羅大学のキャンパス(ソウルには新羅大学はないので、てっきり東国大学のことかと思ったら、ロケは大邱(テグ)の啓明大学で行われたらしい)。
ユン・ソウン(キム・ハヌル)は少し控え目の英文科の学生。彼女は学校から壊れた無線機を自宅に持って帰ることになってしまった。
その晩は皆既月食の夜。ソウンは月食を見ようと自室の窓から空を眺めていた。その時、壊れているはずの無線機にスイッチが入り、若い男性の声で呼び出しのコールが流れてきた。この呼び出しに応えるソウン。声の主は同じ大学の学生チ・イン(ユ・ジテ)だった。二人は、翌日キャンパスの時計台で待ち合わせることにした。約束の時間は午後2時。
ソウンは本館前にある完成を目前に控えた時計台の前で彼を待った。やがて時計は4時を打つ。ホコリっぽい秋晴れの下で2時間待ったが彼は来なかった。
インも本館前の時計台でソウンを待っていた。秋の冷たい雨に濡れながら。ソウンに貸そうと思っていた無線の入門書を抱えて。2時間待ったがソウンはとうとう現れなかった。

その晩、無線機を前にした二人は、お互いを非難する。が、やがて話しが妙に噛み合わないことに気が付く。そして、実はお互いが異なる時間に住んでいることに気づくのだ。ソウンは1979年に住み、インは2000年に生きている。
二人はこの信じ難い事実に半信半疑。幾晩かの交信を続けた二人は、小さな事実が重なって、この事実を認めていく。単に事実を認めただけではなく、お互い心を通わせ始めたのだ。

その後、79年のソウンはずっと憧れていた先輩となんとかデートにこぎつけた。実は先輩も彼女のことが好きらしいと分かり、ソウンは嬉しくてたまらない。その晩、インから「誰か好きな人がいるのですか?」と尋ねられ、ソウンはインにこの先輩のことを打ち明けてしまう。ここから、物語りは、大きく動き出す。

70年代の終わりという時代背景。キャンパスやキャンパスを取り巻く環境などが当時の世相を取り入れて、巧みに表現されています。また、慎ましやかで控えめなソウンと何事にも積極的でケータイが手放せないインのガールフレンドとの対比。そして憧れの先輩とインの対比。この20年で、考え方や服装、髪型だけでなく全てが随分変わってしまったんだなぁ、って改めて思い知らされます。ボクも1979年当時は青春ど真ん中やったもんなぁ(今もそうだけど)。時代考証がしっかりとなされています。
今でこそホイホイ気軽にみんな韓国へ行くけど、日本に住んでいる者にとっては20年前の韓国を観光地として見ていなかったような気がします。韓国へ行くには査証(ビザ)も必要だったしね。

この映画の着想は確かに面白い。
無線機のイタズラで時を超えて交信するというアイデアは、ここ1年ぐらいに公開された「オーロラの彼方へ」(米国映画・未見)でも使われていた設定だけどね。インターネットやEメール全盛のこの時代に、無線という媒体を使っているのも面白い。
1979年と2000年で、女と男が知り合い、心を通わせる。でもそれは決してお互いが触れ合ったり、見つめあったりすることは出来ない。時を超えて人を好きになるのは、先日観たやはり韓国映画の「イルマーレ」と同じだ。でも「イルマーレ」は2年。「リメンバー・ミー」は20年。
二人にとって、20年はあまりにも大きくて過酷だ。ソウンにとっては、もうホコリを被った昔のこと、でも忘れ去るには余りにも大きすぎて決して忘れられない想い出なのだ。
20年間は確かに長い。でも20年は確実にやって来る。2000年に生きるソウンとインは...。

設定の割にはSF色は極めて薄く、上品な恋愛映画に仕上がっています。ちょっと上品すぎて、観る人によっては「喰い足らない」と感じるかもしれません。ソウンは自分の未来に対して、少しは抵抗して欲しかったなぁ。
監督がおっしゃっていた「従来の韓国映画に多かった、べたべたしたメロドラマ風の恋愛映画の殻を破りたかった」という狙いは達成されているのではないでしょうか。
いろんな意味で良くできた、恋愛映画の佳作です。
お時間が許せば是非ご覧下さい。

おしまい。