「タイガーランド」

兵士である前に、人間でありたい


  

ベトナム戦争の敗戦が色濃くなった70年頃のお話し。ベトナムへ送り込むために新兵を教育する、米国国内のキャンプ地が舞台だ。タイトルになっている「タイガーランド」とは、このキャンプの総仕上げに使われるベトナムそっくりに作ってある演習地の名前だという。

新兵たちの境遇は様々だ。徴兵された者がほとんどだが、自ら志願してこのキャンプ地に来た者もいる。白人も黒人もいれば、教育レベルも職業も様々だ。ただ共通しているのは若さと、死にたくないという思いだ。

そんな新兵たちの中に、一人の風変わりの若者がいた。この映画はこの若者ボズの物語だ。
ボズはこれまでの3カ月間の教育期間中、訓練を受けているよりも、営倉の中で過ごしてきた時間の方が長い問題児。でも、彼は単なる「ワル」ではなく「兵士である前に、人間でありたい」という、人であれば誰でも持っている思いをストレートに表現しているだけなのだ。ただ、軍隊という特殊な集団で、しかもこの教育が終わればベトナムへ配属され、死に至る可能性が非情に高いこの時期においては、ボズの存在は上官にとっては目の上のたんこぶだ。

ボズたちが受けている訓練は、ベトナム戦争でいかに勝利を収めるかではなく「いかに自分が生き残るか」に主眼が置かれている。上官も訓示で「敗戦が濃厚だ」なんて口走ってしまうんだから凄いね。
それでも新兵を教育して前線へ送り出さねばならない。仕事とはとは言え、上官の心中を察するに余りある。もちろん、そんな状態で前線に放り出される新兵たちも、たまったもんじゃないけどね(ホントに)。

「戦争へ行く」という恐怖を一度たりとも味わう事が無く過ごせた分だけでも、日本に生まれたことに感謝!

ボズは同じ小隊でいろんな人間と出会い、彼らが抱える様々な悩みを聞き、本当に大きな問題を抱えている者には除隊の手続きの面倒を見てやる。
今まで苦悩の色を濃くみせていた若者が、除隊がかない、キャンプを離れるときに見せる笑顔の屈託の無さが、妙に印象的だ。
当時の若者たちが持ち合わせている悩みは、現在のボクたちと大して変わらないんだなぁ。ただ、ボクたちは死と背中合わせにいるわけではないけどね。

ボズは決してヒーローとして描かれている訳ではない。彼も彼なりに人間の弱味を持ち合わせていて、自分用の逃げ道も用意している。でも、こんな時期だからこそ彼のような「人間臭さ」が貴重だったのかな。

必見の映画ではないかもしれないけど、観て損はない作品です。
大阪では近日公開です。ボクは出張に行った東京で観てきました。200名ほど入れる劇場に100名ほどの入りでした。

おしまい。