「ただいま」

字幕が悪い?


  

節分を過ぎたからか、急に暖かくなったような気がします、皆さんお元気ですか?
今、会社には風邪を引いて、土日は寝込んで、とうとう会社を休んでしまったという涙声の人がいますが、早く良くなって下さいね。やっぱり、山歩きして体力つけたり、リフレッシュしたりしないと駄目ですよ。

今回観てきたのは99年の中国映画「ただいま(過年回家)」。ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(優秀監督賞)を受賞した作品。監督は張元(チャン・ユァン)、あの怪作「クレイジー・イングリッシュ」を撮った監督さんです。この年、同時に銀獅子賞を撮ったのが「あの子を探して」だそうです。「あの子…」と比べるとこの「ただいま」はなんとも地味な作品ですね。
会場はここも「まいど」のビッグステップにあるパラダイスシネマ。2月3日からたった一週間だけの公開。それも頷けるほどの淋しい入りで、今回は10名でした。「ただいま」はどちらかと言うとシネ・ヌーヴォのレイトショー向けの映画で、来週からヌーヴォで公開されるレオン・ライの「ひとめ惚れ」こそパラダイスシネマで上映すべきだと思うのですが、それではあまりにもシネ・ヌーヴォに失礼かな。

お互いに女の子を持つ親同志が再婚した。娘は17歳と16歳。姉は美人で勉強も良くでき、大学進学を目指している。母親の連れ子の妹は、勉強よりも遊ぶのが好き、高校を出たら住み込みで就職したいと思ってる。そんな妹、タウ・ランがほんの些細な出来事がキッカケで、血の繋がっていない姉を殺してしまう。タウ・ランは刑務所へ行くことになった。
時は流れて17年後。翌年の出所を控え、タウ・ランは春節(旧正月)を家ですごせるよう一時帰宅が許される。17年ぶりに街へ出た彼女は急速に再開発が進む街の様子に驚いてしまう。次々に出迎えの家族と共に去っていく仲間を後目に、彼女は行くあてもなく戸惑うばかりだ。それに、彼女を出迎えてくれる家族も姿もない。義父の最愛の娘だった姉を殺してしまったタウ・ランに帰る家など無いのだ。そんな彼女を刑務所の若い主任が家まで送ることになった。
タウ・ランが昔住んでいた家は再開発が進んでいて瓦礫の山。しぶるタウ・ランの手を引いて近くで消息を尋ね、ようやく新興住宅街のアパートにある彼女の両親が住む新居を探し当てた。もう夜が更けて、新年を祝う爆竹の音が街に響いている。 ドア越しに、タウ・ランの姿を認めた年老いた父親の表情は氷ついてしまう。突然の帰宅に、彼女を迎える心の準備すら出来ていなかったのだ。彼は主任の話の途中で寝室に引きこもってしまう。母親もどうしていいのかわからず、自分の娘に声を掛けてやることさえ出来ない。アパートの一室に広がる冷たい空気。やがて、父親が寝室から出てきて「タウ・ランが家に帰ってくる前に、家を出るつもりだった。でも、今は考えを改め、出て行かなくて良かったと思っている」と、和解の言葉を語り、三人の家族は泣き崩れる。

いい話しなんだけど、全体のトーンが暗すぎる。それに、字幕の訳が悪いな。父親が寝室から出てきてから語る言葉はホントはもっと深い意味があるハズなのに、上手く訳せてないから、観ているこっちには父親の心の葛藤が全然伝わってこない。その後の流れから「あ々、さっき父親はタウ・ランを許したんだな」って分かる有様だ。だから、どういう心境で父親がタウ・ランを許したのかよく分からない。ということは、最大のクライマックスで、この映画に素直に感動出来ないんやな。もし、中国語のセリフでも問題があるのなら仕方ないけど、この字幕の訳のせいで、この映画は随分損をしているような気がします。
それと、刑務所の主任を単なる狂言回しに使っているのは惜しすぎる。彼女はこのタウ・ラン一家の人間模様を見てどう感じ、どう思ったのか。途中で、水餃子を食べながらタウ・ランに彼女の身の上話をしたのだから、タウ・ランのアパートをそっと抜け出してから、自分の家に電話するシーンくらいほしかったなぁ。
でも、主任役のリー・ビンビン(すごい名前やなぁ)は、なかなかいいよ。いかにも中国女性らしくて、とてもきれいな人なんだけど、気が強そうで、融通が利かない。次回、もっと明るい映画に出れば人気が出るような気がします。チャン・ツィイーとはだいぶタイプが違うけどね。この主任を見ていると、何故か「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の女刑務官を思い出してしまいました。

ロケは天津で行われたようですが、17年前と今の中国の都市の様子がよく分かるように撮られています。今の中国の開発(発展?)は凄いスピードで進んでいるし、クルマの交通量も恐るべきスピードで増えています。タウ・ランが戸惑ったり、道を渡れなかったりするのも良く分かります。きっと北京でも天津でも古い時代のものは取り壊されてほとんど残っていないんだろうね。

今週一杯はパラダイスシネマで普通に上映中。その後はしばらくモーニングショーのみで上映されるようです。みんなにオススメの一本ではありませんが、今の中国のひとつの側面を知りたい方には興味深い作品かもしれません。特に、一般庶民が家でどんな食事をしているのかよ〜くわかりますよ。

今回は長いね。おしまい。