「三文役者」

竹中直人に惚れ直す


  

突然映画が始まる。

竹中直人の、あのねっちこい嫌らしさというか、図々しさというか、そんな芝居だ。サングラスを掛けて、喫茶店のウエイトレス(荻野目慶子)を口説いてる。

最初は何が何だか訳が分からない。でも「そうだった、これは殿山泰司の芝居だった」と想い出す。ボクぐらいの年齢だったら名前は知らなくても、顔を見れば「あ々、この人」とわかるはず。たとえ殿山泰司を知らなくても、昭和に生きた映画俳優の半生記として観れば充分楽しめます。

映画の構成は、殿山泰司と映画でコンビを組むことが多かった音羽信子の独白と竹中直人演じる殿山泰司のドラマ部分、そして出来上がった作品からなっています。調子のいいおっさんやと思っていたタイちゃんが、実は憎めないとっても素敵なキャラクターの持ち主であるということがドラマ部分から少しずつ明らかになっていく。竹中直人と荻野目慶子の掛け合いがなんとも絶妙です。 映画を愛して、映画のために命を投げ出すことすらいとわない。役者の根性を見たような気がします。でも、その「根性」は映画に対してだけであって、女性やお酒を前にすると、へなへなと折れ曲がってしまう。お話ではなくて、実際にこんな人がいたんだ。なんかごっつい愛すべき人間がいたんや、と妙に感動してしまう。
最近、ほんまにめっきり涙腺が弱くなって、映画を観ると半分は泣いてしまうんやけど、今日もそうでした。病に侵されたタイちゃんが、それでも必死に演じる姿を見て、涙、涙。

「こんな生き方もあるんやなぁ」って納得してしまうと言うか、羨ましく思ってしまう。人生はある意味では開き直った方が「勝ち」なのかなぁ。竹中直人という芸達者な役者と、荻野目慶子、吉田日出子がびっしっと締めて「日本映画もいいなぁ」と思わせてくれた作品でした。もうすぐ公開予定の竹中直人主演・監督の「連弾」も前評判が高いみたいなので楽しみです。

この「三文役者」はテアトル梅田で公開後、現在は動物園前の「シネフェスタ」で2/2まで公開されています。強くは勧めませんが、ボクとしてはオススメの一本です。
雨の土曜日、しかも午前中というせいもあったのでしょうが、観客はボクを含めてわずかに5名。「いい映画=ぎょうさんのお客さん」ではないと知っていますが、あまりにも残念な動員でした。

おしまい。